気まぐれ何でも館:(521)三木露風(トラピスト歌集)(13)
波の音静に聞ゆ暮れてゆく善き一日(にち)を奏(かな)づるらしも
白菊(しらぎく)のあまた咲(さ)きけり我庭(わがには)に春は過(す)ぎつつ夏は来(きた)りて
しめやかに雨の雫(しづく)の落つる音(をと)中にまぢりて虫のなきけり
雨霽(は)れて明(あか)るき夏の畑道(はたみち)に牛は出(い)でをり日に輝(かがや)けり
牧草(ぼくさう)のしげみも高くなりにけり垣根(かきね)の中(なか)に牛は食(は)みゐて
閑古鳥(かんこどり)なけば山彦(やまびこ)返(かへ)したるいと麗(うるは)しき初夏(はつなつ)の空(そら)
うるはしき光なるかなやはらかに煙れる如き山と空とに
遠山(とほやま)は藍色(あいいろ)にして空(そら)紅(あか)くいと静(しづか)なる夏の暮(くれ)かな
夕(ゆふ)ざれば蛙(かわづ)鳴(な)くなる我庵(わがいほ)の夏は静(しづか)に住みよかりけり
立ち出(い)でむいづこなりとも我神(わがかみ)の下(もと)とおもへば憂(うれひ)あらなく
此世(このよ)をば宰(つかさど)り給ふ大神(おほがみ)の御言(みこと)かしこみ我(われ)は行くなり
見馴(みな)れたる聖堂(せいだう)の屋根(やね)のかなたにぞ薄赤(うすあか)き雲(くも)ただよひにける
12.12.14 抱拙庵にて。