コンクリートが生んだ「作りっぱなし」の罪、ネット情報より、ミクシ日記 | 馬頭観音のブログ
- コンクリ-トが生んだ「作りっぱなし」の罪
法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教授、溝渕利明氏に聞く
山中 浩之 2012年12月11日(火)
12月4日、中央自動車道の笹子トンネルで起こった天井板の崩落。9人の死者を出す惨事に専門家は「信じられない事態だ」と口を揃える。今回の事故の根底には、我々の社会が「コンクリート」について抱いている思い込みがあるのではないだろうか。コンクリートの“寿命”“健康管理”を研究している、法政大学の溝渕利明教授に素朴な疑問をぶつけてみた。
(聞き手は山中浩之)
笹子トンネルの事故の原因に、メンテナンスの問題が指摘され始めました。溝渕先生は以前から、下水道などの公共設備に使われているコンクリートの寿命について警鐘を鳴らしていましたね。
溝渕:1980年代に米国で落橋事故が頻発したことで、補修を怠ってきたコンクリートが30年~50年前後で事故の原因になることが分かってきました。日本は米国からざっと30年遅れ、高度成長期に大量に使われたコンクリートがそろそろ危険域にはいります。専門家は危険を訴えていたのですが、最悪の形で実証されてしまいました。
そもそも、コンクリートはどの程度持つものなんでしょう。たとえば笹子トンネルの場合は。
溝渕:「耐用年数の30年から50年は楽に持つし、安全係数を高めに取っているから実際にはさらに長期間大丈夫」と考えていたはずです。ですので「なぜこんなに早く」と、専門家はみな驚いているんです。
ただし、コンクリートの寿命は使用環境で大きく変わってくるのです。
荷重などによってひび割れが発生しますし、材料そのものやひび割れから進入する大気や水によって、内部の鉄筋が錆びて劣化します。人間と同じで、年を取ればあちこちが痛み出して、元々の性能を発揮できなくなってしまう。どのくらい長生きできるのかは、その人が生活する場所や働く環境で大きく変わってくる。だから、健康診断を受けて、早期治療で修復を図るわけですね。
事業者のメンテへの意識は決して低くない
仕事が忙しいのをいいわけに、つい受診をサボりたくなりますが。
溝渕:すると、あとで大きなツケを払うことになるかもしれません。これもすでに指摘されていますが、近年の景気低迷で税収が上がらない自治体や、業績が伸び悩む企業がメンテナンスコストを削っていることに、私はすごく危機感を覚えています。下水道のメンテ不足はその最たるものです。
高速道路や鉄道の事業者はどうでしょう。
溝渕:彼らの危機意識はすごく高いと思います。事業の根幹と人命がかかっていますから。メンテナンスも人とコストを掛けているはずです。一部メディアが言うような、事業者の手抜きや意識の甘さに原因を求める姿勢は、問題の真相を探り出す上ではむしろ障害になるんじゃないかと思います。
メンテの手抜きが原因ではないと?
溝渕:手抜きの有無は調査を待たないと結論は出ません。申し上げたいのは、かつて「コンクリートの構造物にほとんどメンテナンスは必要ない」という考え方が常識だった時代があり、笹子トンネルを初め、その時代に作られた大型構造物が今も数多く実用に供されている、ということです。
溝渕:さらに言えば、まだその“常識”は社会に根強く残っています。「インフラを作るまでは熱中し、あとはほったらかし」という気分が。これはコンクリートに限りませんが、高度成長期のコンクリート大量使用が培ってしまったものかもしれません。
笹子トンネルは1977年開通ですね。
溝渕:ええ。建築物の設計・施工のバイブルに相当する「示方書(コンクリート標準示方書、土木学会編)」を見ると分かるのですが、当時の示方書は「耐久性設計」をベースとして編纂されていないのです。コンクリートはメンテナンスフリーだと思われていたからですね。
これが大きく変わるのは80年代半ばくらいからです。83年にNHKが塩害によるコンクリートの劣化を報じたのをきっかけにメディアが動き出し、84年放映の「コンクリート・クライシス」が大きな衝撃を呼びました。その頃からコンクリートの寿命や、現場の施工によって品質に大きな差が出てくることが明らかになり、ようやく認識が変わり始めるんです。
なるほど。
溝渕:さらに1999年、山陽新幹線で、トンネルの天井からコンクリートが落下して、車両を直撃した事故もありましたね。小林一輔・東京大学大学名誉教授(2009年没)が『コンクリートが危ない』(岩波新書)を出した直後でした。
こういったこともあって、現在の示方書には耐久性設計を基本とした編纂となっていますし、その後のメンテナンスについて新たに維持管理編を2002年に出しています。
しかし、マニュアルが変わってもメンテナンスが不十分な実態は変わらなかった。
メンテ施設の追加も実施は大変
溝渕:ええ。新しく建てられる物はいいのですが、問題は古い構造物です。笹子トンネルはまさにその悪い例です。天井高5メートルの、クラウン(トンネルで最も高い位置)で、天井板を吊るボルトを固定している。しかも照明がないから真っ暗です。元々メンテナンスを考えた構造になっていない。
ボルトがしっかりコンクリートに固定されているかどうかは、叩いて音を聞いて調べます。緩んでいれば打音が変わるわけです。笹子トンネルの場合、暗闇の中で高い脚立を立てて1本ずつ叩くことになるわけで、作業そのものが相当大変です。かといって目視だと、普通の家の1階から2階の天井を見るくらいの距離があります。
「作ったら放っておいても大丈夫」という前提で考えられているからですね。
溝渕:そうです。メンテナンスに配慮しているならば、確認作業がもっと楽になるように、クラウンの左右、もっと低い位置で吊るはずです。そういうトンネルももちろんいくつもあります。おそらくですが、構造的に問題ないと判断して、工期やコストの関係で、もっともボルトの本数が少なくて済む方法を採ったのではないでしょうか。
溝渕:繰り返しになってしまいますが、本来、理屈の上では起こらないと思っていた事故なんです。だから、メンテナンスで防げたかどうかは分かりません。しかし、何らかの手がかりが発見され、予防につながった可能性は高いと思います。
なるほど。しかし、そもそもメンテの必要性が80年代後半から認識されていたならば、確認作業や機材を持ち込むための通路や照明が、どんどん整備されていてもよさそうなものではないですか。
溝渕:たとえば作業用のデッキを付ける、と言えば簡単そうですけれど、もともと設計にない構造物を後付けするのは大ごとですよ。最悪の場合、メンテ用の通路の増設工事が施設の耐久力にダメージを与えてしまう可能性もある。これも推論ですが、例えば笹子トンネルのような古い構造の場合、天井板とその吊り下げの強度が、メンテや補修用の重い機材を持ち込むことまでは考えていない可能性もあります。この場合、全面改修が必要になりますね。
ツケはいずれは支払わねばならない
「メンテナンス」を行うための工事でも、相当大がかりになってしまう。
溝渕:ええ。かなりの費用がかかるし、工事のために高速道路や鉄道を止める必要もあります。
無論、これはやらねばならないことなんです。だけど「点検のために」という理由では、社会的な不便や値上げを受け入れてもらえない時代がずっと続いていた。
原発事故も大きなきっかけになりましたが、日本の社会は「建設」から「補修」へ、ようやく大きく意識を変え始めているところだと思います。実際、国も公共構造物のメンテナンスによる長寿命化を打ち出し、調査予算も付きました。
国も企業も、何もしていないわけではない。
溝渕:ええ。努力しているのですが、お金も時間も追いつかないうちに、過去から抱えていたツケが、いまドッと吹き出してしまっているんです。
今後に取るべき道は。
溝渕:80年代前半までのコンクリート構造物は、国が予算を付けて一斉に点検を進めるべきでしょう。その上で、たとえば、予算の立て方に「予防保全」を取り入れていく。「建てる、傷む、建て替える」から「建てる、メンテする、長く使う」ことで平準化し、いずれかかる費用を積み立てていくような意識を醸成することが必要だと思います。
入院してから健康を取り戻すより、健康な間に鍛えておく方がトータルでは安く長生きできる。「LCC(ライフサイクルコスト)」の考え方を広げて
いきたいものです。
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巨人軍は永遠に不滅です、と言った人がいたように思いますが、人工物にそういうことはないんでしょうね。

