気まぐれ何でも館:(520)三木露風(トラピスト歌集)(12)
  
 この湊(みなと)鐘撞堂(かねつきだう)のそびえたる天主(てんしゆ)の御堂(みだう)美(うつく)しく見ゆ
  
 青葉(あをば)する山を負(を)ひたる函館(はこだて)の港(みなと)を出(い)づる朝はよろしも
  
 山鳩(やまばと)も啼(な)き出(い)でにけり山裾(やますそ)の暖(あたたか)き路(みち)を帰(かへ)り来(き)ぬれば
  
 木が茂(しげ)り草が茂りて夏近(ちか)し山鳩(やまばと)なきて昼(ひる)深(ふか)きかも
  
 あたたかき日は照(て)りにけり鶏(にはとり)の子鶏(こどり)をつれてあそぶ葉(は)かげに
  
 朝も鳴(な)き夕(ゆふべ)にも鳴く行々子(よしきり)の谷間(たにま)に声(こゑ)は休(やす)まざりけり
  
 靄(もや)の日はいとよかりけり谷間(たにま)なる若木(わかぎ)の緑(みどり)粛(しめ)やかにして
  
 黄(き)なる花に蝶(てふ)一つをりそよ風(かぜ)の共(とも)に動(うご)かす夏の昼すぎ
  
 すず風(かぜ)の窓(まど)より入りてたんぽぽのわた毛(げ)はあらぬ方(かた)に付(つ)きたり
  
 頬白(ほほじろ)の夕暮(ゆふぐれ)に来(き)て鳴(な)きにけりいとやはらかに静(しづ)けき時(とき)を
  
 何虫(なにむし)か草(くさ)の畑(はたけ)になきにけり日の暮(く)れてゆく窓(まど)の外面(とのも)に
  
 草刈(くさかり)の帰(かへ)り行(ゆ)く路(みち)紫(むらさき)の桐(きり)の花咲(さ)く峡(かひ)の夕ぐれ
  
12.12.9 抱拙庵にて。