気まぐれ何でも館:(519)三木露風(トラピスト歌集)(11)
  
 地(ち)に鳥(とり)の、人の、置(を)かれて一つなるものと思ふに別(わかれ)を惜(をし)む
  
 黒(くろ)き鳥(とり)二声(ふたこゑ)ばかり啼(な)きたるに別(わかれ)を惜しと思ひけるかも
  
 ときどきに音(おと)づれて来(こ)よ異(ことな)れる國(くに)と家とに春が来(きた)れば
  
 夕暮(ゆふぐれ)となりけり今日(けふ)の一日(にち)の終(をわり)に祈(いの)り安く思はむ
  
 閑古鳥(かんこどり)朝まだきより啼(な)きにけり雨にうるほふ森の彼方(かなた)に
  
 閑古鳥(かんこどり)小雨(こさめ)の中に啼(な)きにけりあすは立たなむ我(われ)を知らなく
  
 高き杉(すぎ)生(を)ひ立ちにける谷隈(たにくま)に畑(はたけ)の見ゆる山の岨路(そばみち)
  
 平(たひら)なる所(ところ)に出(い)でつ海岸(かいがん)の路(みち)には白き花の咲(さ)きけり
  
 沙地(すなぢ)にも馬鈴薯(ばれいしょ)植(う)ゑてゐたりけりとあるはずれの海岸(かいがん)の町(まち)
  
 鴉(からす)来(き)て磯(いそ)の小家(こいゑ)にとまりけり蕪菜(かぶな)をうゑし畑(はた)に日は照る
  
 鈴蘭(すずらん)を摘(つ)める子あまた帰(かへ)りくる薫(かを)りの道にあふれたるかも
  
 一日(にち)を善(よ)く送りきと思ひいづ疲(つか)れて後(のち)の眠(ねむり)の時に
  
 夜(よる)の風涼(すず)しく吹(ふ)きて入りにけり物(もの)を思ひて窓開(あ)けをれば
  
 落葉松(からまつ)の林は好(よ)くもつづきたり朝の草野(くさの)に馬(うま)の出(い)で居(ゐ)る
  
12.12.1 抱拙庵にて。