気まぐれ何でも館:(518)三木露風(トラピスト歌集)(10)
  
 馬立てて土をすきゆく若者(わかもの)の顔(かほ)と鞭(むち)とを日は照らすなり
  
 鐘(かね)の音(おと)鳴り響(ひび)くなり松林(まつばやし)そぞろあるけば夕(ゆふべ)に近く
  
 善(よ)き芹(せり)の惠(めぐみ)の中に生(を)ひ出(い)でて蕗(ふき)もみつばも摘(つ)むべかりけり
  
 ゆく水の流(なが)れて音(おと)す蕗(ふき)の葉(は)の草(くさ)にまぢりて生(を)ふる谷間(たにま)に
  
 菜(な)の花(はな)のところどころに咲(さ)きにけり北海(ほつかい)の地(ち)の春遅(おそ)くして
  
 赤馬(あかうま)の草(くさ)を食(は)み居(ゐ)る崖下(がけした)に日は輝(かがや)きて夏は来(き)にけり
  
 花と花との中を通(とほ)りて岡(をか)をくだるそよ風(かぜ)吹きて昼(ひる)長閑(のどか)なり
  
 静(しづか)なる真昼(まひる)の家(いゑ)に鳥を聴(き)く此世(このよ)の外(ほか)のここちするかな
  
 明(あか)るき日蝿(はい)の音(おと)だに聞くさへもいとのどかなる心地(ここち)するかな
  
 聖堂(せいだう)のドオムの上にかかりたる星の一つがうつくしきかな
  
 天(あま)つ國(くに)われら望(のぞ)みて尚(なほ)待(ま)たむ今は別(わか)れて地(ち)を離(さか)るれど
  
12.11.24 抱拙庵にて。