気まぐれ何でも館:(516)三木羅風(トラピスト歌集)(8)
  
 頬白(ほほじろ)が磯(いそ)の掛屋(かけや)の竿(さほ)に来て鳴(な)く春の日の楽しくもあるかな
  
 閑古鳥なに啼く声ぞ若き日に聞きたる森を偲(しの)び出(い)でけり
  
 霧(きり)深く鐘(かね)鳴りにけり燈台(とうだい)の航路(こうろ)を告(つ)ぐる夜(よる)のその音
  
 黄(き)なる花咲(さ)きてありけり何花(なにはな)かいと小(ちひ)さなる道の辺(べ)の草(くさ)
  
 青き原はるかに見れば遠山(とほやま)のいただき見ゆる霞(かすみ)の上に
  
 蝶々(てふてふ)の紫(むらさき)なるもありにけりふたつ縺(もつ)れて遊ぶ真昼(まひる)に
  
 日が暮れて窓に明(あか)りのさす時に今日(けふ)の一日(ひとひ)を喜(よろこ)び謝(しや)せむ
  
 炊煙(すゐゑん)の出(い)でたる家の萱葺(かやぶき)の彼方(かなた)に森は繁りたりけり
  
 笛(ふえ)鳴らし船の行きたる後(あと)の海ただ潮鳴(しほなり)の寄する音のみ
  
 羽(はね)黒く胸白き鳥来ては鳴く我家(わがや)の春は楽しかりけり
  
 風の音と雨の音とを聞きをれば小鳥(こどり)啼(な)きいづ霽(は)るるにやあらむ
  
 子らの声林の中にするを聞くあめ霽(は)れがたの初夏(はつなつ)の昼
  
 鶯の深山(みやま)がくれに啼(な)き立つる春も終(をはり)の谷(たに)渡(わた)る声
  
12.11.10 抱拙庵にて。