原発事故、どう防ぐ? 原子力規制委5委員に聞く
原子力規制委員会の発足から1カ月半余り。福島第一原発事故のような事故を再び起こさないための新安全基準作りに着手した。放射能拡散予測の訂正で、電力会社からの情報がチェックできていないことが発覚。検証体制づくりも課題だ。5人の委員に聞いた。
■できるだけ議論公開 田中俊一委員長
地に落ちた原子力規制行政の信頼を一つ一つ回復しないといけない。まず、全体的な規制、指針類の見直しをはかる。その中身がどうなるかが問題だ。
そのうえで、規制委の資料や議論はできるだけ公開する。とことん議論したうえで決まっていることを理解してもらうことが、信頼につながる。そのための手間は惜しまない。
電力業界の圧力を受けないためにも、透明性が大切だ。だれとどんな話をしたかはルールを定めて公表する。事務局の規制庁の職員は今までと一緒だという指摘もあるが、私自身は心配していない。全体の枠組みが変われば、人間は新しい枠組みにおさまる。
原発立地自治体には、安全と判断したことは説明する。だから再稼働させてくださいとは言わない。それは、今までと違う。再稼働の是非は自分たちで判断してほしい。
改正原子炉等規制法では40年で原則廃炉としたが、20年延長の例外規定も盛り込まれた。我々が評価し、最新の安全基準を満たしていれば認めるし、満たされていなければ認めない。ただいっぺんに20年認めるとは簡単にはいかないと考える。
◇
田中俊一委員長 1945年生まれ。元原子力委員長代理
■予断持たず自然見る 島崎邦彦委員長代理
以前、地震の長期評価に関わった。自然を見て様々な情報から、どんな危険性があるのか調べていくということでは、規制委員の仕事も共通している。これまでの研究を生かして、原発の安全審査に臨みたい。自然を素直に予断を持たずに見るつもりだ。
今の地震学は完全なものではない。わからないものはわからない。しかし、科学的な判断はできるし、それなりに社会に役立つものだ。この機会に、それを役立たせていきたい。
現地調査の要点は(断層を直接見ることができる)トレンチ調査だ。トレンチがなくても、現地を見られるところはきちんと見たい。津波の評価も早くしないといけない。
東日本大震災後に、私が「東京電力福島第一原発の津波リスクが見過ごされていた」と声を上げたと言われている。だが、地震後に初めて分かったことがいくつもある。いろんな事実が明らかになって、声を上げたということだ。
科学的根拠に基づいて出された意見が受け入れられなかったら、大きな声を上げて抗議をするしかない。でも、皆さんにはわかってもらえると思っている。
◇
島崎邦彦委員長代理 1946年生まれ。元地震予知連絡会長
■継続的な改善求める 更田豊志委員
今、原発の新しい安全基準を作っている。新基準での審査では、すでに整備されている消防ポンプなどの可搬設備で十分に危険性が小さくなっていることをまず確認する。さらに3年以内とか5年以内という間に恒常的な設備の整備を求めるというやり方になる可能性は十分にある。
これは猶予期間というよりも、より安全性や信頼性を高めるため、継続的に改善を求めていくという考え方に基づいている。
福島の事故では現地の指揮所となった免震重要棟が非常に重要だった。しかし、全国のすべての原発に整備されているわけではない。免震重要棟ができるまでの間、別の方法で機能を担保することが大切だ。
安全基準そのものも、来年7月に施行されたらそれで終わりではない。海外の事故や不具合、新技術の開発などに応じて、常に議論し改善されるべきだ。
今までの日本の原子力の安全規制で反省しなければならないのは、継続的な改善が求められなかったことだ。任期中には、規制側も事業者側も、継続的改善を強く意識できるような環境や仕組みにたどり着けたらと思っている。
◇
更田豊志委員 1957年生まれ。元原子力機構副部門長
■被曝不安解消に努力 中村佳代子委員
低線量被曝(ひばく)に対する不安は説明だけでは簡単には消えない。100ミリシーベルト以上被曝した場合に健康に影響が出ることは科学的に分かっているが、低線量被曝の影響を科学的に立証するのは時間がかかる。不安の解消はすぐにはできないが、様々な問題の大きさを比較しながら解決していくしかない。
福島第一原発事故当時、パニックで広報が機能せず、きちんと情報が伝えられなかった。その反省を踏まえ、分かりやすい言葉で情報発信していきたい。緊急事態に備えて日ごろから説明することで、情報共有に努めていきたい。
先日まとめた原子力災害対策指針づくりにあたって、被害者の目線に立つことを心がけた。今後は自治体が防災計画を作る際に、地域の目線でアドバイスできる人材を養成していく。それが私の仕事だ。
防災対策の重点区域の拡大で避難対象者が大幅に増える。実効的な計画が作れるのか。防災の基本は備えあれば憂いなし。憂いを取り除くために備えをしてほしい。それが無理なら、根本的な問題に立ち戻って、住民の方々に考えてほしい。私は以前から「信頼できない技術や科学は使うべきではない」と言っている。
◇
中村佳代子委員 1950年生まれ。元日本アイソトープ協会主査
■世界からの情報得る 大島賢三委員
国会事故調の委員を務めた経験を規制委で生かしたい。事故調の提言を規制委の仕事に反映することが、私の役割として期待されていると思う。
規制委は独立性の高い3条委員会として設置された。電力会社とのやりとりも公開して透明性の向上に努めながら、安全基準づくりも着手した。国会事故調が報告書で示した提言のうち、委員会のあり方に関する部分はかなり取り組みが進んでいる。
一方、息長く取り組まなければならない課題もある。国際的に通用する原子力分野の専門家の養成は一朝一夕にはできない。米原子力規制委員会(NRC)とも人材交流を進めたい。海外の情報を得るため、規制庁職員を在外公館へ派遣することも外務省に要請している。規制委発足で一元化された核セキュリティーの問題にも力を入れたい。
過酷事故対策が法規制ではなく行政指導による電力会社の自主的な取り組みだったために対策が遅れ、事故の遠因になった。だが、安全向上には原子力事業者の自助努力も必要だ。事業者の自助努力と国の規制が相互補完しながら全体の安全性を高めることが重要だ。
◇
大島賢三委員 1943年生まれ。元国連事務次長
原子力規制委員会の発足から1カ月半余り。福島第一原発事故のような事故を再び起こさないための新安全基準作りに着手した。放射能拡散予測の訂正で、電力会社からの情報がチェックできていないことが発覚。検証体制づくりも課題だ。5人の委員に聞いた。
■できるだけ議論公開 田中俊一委員長
地に落ちた原子力規制行政の信頼を一つ一つ回復しないといけない。まず、全体的な規制、指針類の見直しをはかる。その中身がどうなるかが問題だ。
そのうえで、規制委の資料や議論はできるだけ公開する。とことん議論したうえで決まっていることを理解してもらうことが、信頼につながる。そのための手間は惜しまない。
電力業界の圧力を受けないためにも、透明性が大切だ。だれとどんな話をしたかはルールを定めて公表する。事務局の規制庁の職員は今までと一緒だという指摘もあるが、私自身は心配していない。全体の枠組みが変われば、人間は新しい枠組みにおさまる。
原発立地自治体には、安全と判断したことは説明する。だから再稼働させてくださいとは言わない。それは、今までと違う。再稼働の是非は自分たちで判断してほしい。
改正原子炉等規制法では40年で原則廃炉としたが、20年延長の例外規定も盛り込まれた。我々が評価し、最新の安全基準を満たしていれば認めるし、満たされていなければ認めない。ただいっぺんに20年認めるとは簡単にはいかないと考える。
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田中俊一委員長 1945年生まれ。元原子力委員長代理
■予断持たず自然見る 島崎邦彦委員長代理
以前、地震の長期評価に関わった。自然を見て様々な情報から、どんな危険性があるのか調べていくということでは、規制委員の仕事も共通している。これまでの研究を生かして、原発の安全審査に臨みたい。自然を素直に予断を持たずに見るつもりだ。
今の地震学は完全なものではない。わからないものはわからない。しかし、科学的な判断はできるし、それなりに社会に役立つものだ。この機会に、それを役立たせていきたい。
現地調査の要点は(断層を直接見ることができる)トレンチ調査だ。トレンチがなくても、現地を見られるところはきちんと見たい。津波の評価も早くしないといけない。
東日本大震災後に、私が「東京電力福島第一原発の津波リスクが見過ごされていた」と声を上げたと言われている。だが、地震後に初めて分かったことがいくつもある。いろんな事実が明らかになって、声を上げたということだ。
科学的根拠に基づいて出された意見が受け入れられなかったら、大きな声を上げて抗議をするしかない。でも、皆さんにはわかってもらえると思っている。
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島崎邦彦委員長代理 1946年生まれ。元地震予知連絡会長
■継続的な改善求める 更田豊志委員
今、原発の新しい安全基準を作っている。新基準での審査では、すでに整備されている消防ポンプなどの可搬設備で十分に危険性が小さくなっていることをまず確認する。さらに3年以内とか5年以内という間に恒常的な設備の整備を求めるというやり方になる可能性は十分にある。
これは猶予期間というよりも、より安全性や信頼性を高めるため、継続的に改善を求めていくという考え方に基づいている。
福島の事故では現地の指揮所となった免震重要棟が非常に重要だった。しかし、全国のすべての原発に整備されているわけではない。免震重要棟ができるまでの間、別の方法で機能を担保することが大切だ。
安全基準そのものも、来年7月に施行されたらそれで終わりではない。海外の事故や不具合、新技術の開発などに応じて、常に議論し改善されるべきだ。
今までの日本の原子力の安全規制で反省しなければならないのは、継続的な改善が求められなかったことだ。任期中には、規制側も事業者側も、継続的改善を強く意識できるような環境や仕組みにたどり着けたらと思っている。
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更田豊志委員 1957年生まれ。元原子力機構副部門長
■被曝不安解消に努力 中村佳代子委員
低線量被曝(ひばく)に対する不安は説明だけでは簡単には消えない。100ミリシーベルト以上被曝した場合に健康に影響が出ることは科学的に分かっているが、低線量被曝の影響を科学的に立証するのは時間がかかる。不安の解消はすぐにはできないが、様々な問題の大きさを比較しながら解決していくしかない。
福島第一原発事故当時、パニックで広報が機能せず、きちんと情報が伝えられなかった。その反省を踏まえ、分かりやすい言葉で情報発信していきたい。緊急事態に備えて日ごろから説明することで、情報共有に努めていきたい。
先日まとめた原子力災害対策指針づくりにあたって、被害者の目線に立つことを心がけた。今後は自治体が防災計画を作る際に、地域の目線でアドバイスできる人材を養成していく。それが私の仕事だ。
防災対策の重点区域の拡大で避難対象者が大幅に増える。実効的な計画が作れるのか。防災の基本は備えあれば憂いなし。憂いを取り除くために備えをしてほしい。それが無理なら、根本的な問題に立ち戻って、住民の方々に考えてほしい。私は以前から「信頼できない技術や科学は使うべきではない」と言っている。
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中村佳代子委員 1950年生まれ。元日本アイソトープ協会主査
■世界からの情報得る 大島賢三委員
国会事故調の委員を務めた経験を規制委で生かしたい。事故調の提言を規制委の仕事に反映することが、私の役割として期待されていると思う。
規制委は独立性の高い3条委員会として設置された。電力会社とのやりとりも公開して透明性の向上に努めながら、安全基準づくりも着手した。国会事故調が報告書で示した提言のうち、委員会のあり方に関する部分はかなり取り組みが進んでいる。
一方、息長く取り組まなければならない課題もある。国際的に通用する原子力分野の専門家の養成は一朝一夕にはできない。米原子力規制委員会(NRC)とも人材交流を進めたい。海外の情報を得るため、規制庁職員を在外公館へ派遣することも外務省に要請している。規制委発足で一元化された核セキュリティーの問題にも力を入れたい。
過酷事故対策が法規制ではなく行政指導による電力会社の自主的な取り組みだったために対策が遅れ、事故の遠因になった。だが、安全向上には原子力事業者の自助努力も必要だ。事業者の自助努力と国の規制が相互補完しながら全体の安全性を高めることが重要だ。
◇
大島賢三委員 1943年生まれ。元国連事務次長