CMに字幕、つけませんか 試験放送、難聴者の評判上々

10月から放送している花王の字幕CM。画面右上に「字幕」の文字を入れ、視聴者に字幕CMであることをアピールしている=花王提供
 【河村能宏】字幕を入れたCM放送が広がる兆しを見せている。花王が今年、相次いで放送し、関心を寄せる企業も多い。高齢化に伴う難聴者の増加や、音声を再生しない視聴スタイルの広がりもあり、需要が高まりそうだ。ただ、現在は試験的な放送しか認められておらず、本格普及には課題もある。

■進む高齢化社会、スポンサー注目

 「チューブな乳液? うわっ濃密」。俳優の江角マキコさんが出演する花王の化粧品のCM。江角さんの話す言葉がほぼ同時に、黄色の文字で現れる。

 花王は今月から、こうした字幕つきCMを同社の提供番組で放送し始めた。TBS系「A―Studio」、フジテレビ系の連続ドラマ「TOKYOエアポート」などで流れている。一般の番組と同じで、リモコンの「字幕ボタン」を押すと映る。

 国内では、軽度の難聴も含めると、聴覚障害者は600万人といわれる。

 「今後、高齢化で難聴者が増えていくなか、商品や企業のメッセージを細大漏らさず伝えるために字幕は欠かせない」と、CMを制作した花王クリエーティブハウスの菊池雄介さん。

 関心を寄せる企業は少なくない。2010~11年にはパナソニックやライオン、東芝などが字幕CMを試験的に放送した。ライオンの担当者は「期限を区切った放送では定着しない。本格的に実施されればすぐにでも字幕をつけたい」。

 花王は今年1~4月にも字幕CMを流し、聴覚障害者を対象にアンケートをした。回答者の9割が「(内容が)よくわかった」「わかった」と答えている。

 生まれつき耳が不自由な横浜市の室園晶子さん(41)は「これまでCMには見向きもしなかったが、字幕のおかげで意識して見るようになり、商品情報も頭に残る。店ではまずCMの商品を探す」。

 高校時代に聴力を失った千葉県船橋市のエッセイスト松森果林さん(37)は「字幕があると、耳が聞こえる友人や家族とCMの話ができる。難聴者への配慮は、企業にとっても新たなニーズを掘り起こすビジネスチャンス」と指摘する。

 字幕CMは難聴者向けだけではない。CMはいま多様なメディアに拡散する。スマートフォンで動画投稿サイトをチェックしたり、電車内でトレインチャンネルを見たり。音を出せない場所での視聴環境も広がっており、字幕はテレビ以外でも普及し始めている。

■普及には技術的課題

 字幕放送は一般の番組で先行した。総務省は07年、複数の人が同時に話す生放送などをのぞき、17年度までに原則全番組に字幕を付けるよう目標を設定。その結果、11年度時点で、NHKが70.6%、在京キー5局が90.8%を達成した。

 一方でCMにはそうした目標がなく、放送期間を区切った試験的な放送しか認められていない。総務省は「民放各局の判断に任せている。目標値について統一的な整理は行っていない」と話す。

 その要因のひとつが技術的な課題だ。各テレビ局では、CMと番組は別のシステムから送出される。CMで字幕表示が可能になったのはここ1~2年で、日本民間放送連盟は「システムが安定的に作動するか、検証が必要」という。CMの字幕が一般番組に映り込むなどの放送事故を恐れて、CMの制作者が尻込みしている側面もあるようだ。

 また、字幕をつけるにしても、システム上、文字のサイズや色、種類に限りがあり、CMに映る字幕以外の文字情報と混同しないような配慮が必要になる。

 民放連の井上弘会長(TBSテレビ会長)は「(試験的な放送の)事例を通じて、字幕付きCMの運行面での問題点をいま、共有しているところ」として、当面は試験放送の形が続くという見通しを示した。

■企業の社会的評価にもプラス

 《字幕CMを研究する博報堂ユニバーサルデザインの井上滋樹所長の話》 字幕は聴覚障害者や「聞こえにくい」高齢者に確実に有効だ。米国では、聴覚障害者への情報保障を目的に、ほぼすべての番組に字幕が付き、CMでも多くの企業が採用している。英語を第二言語とする人にも親しまれ、空港やバーなど静かな空間でも役立っている。重要なのは、災害時などの情報に限らず、日常生活で、だれもが同じように情報を享受できる社会の実現だ。企業がそこに力を入れることは、社会的評価を高めることにもつながる。