気まぐれ何でも館:(505) 岡野弘彦(海のまほろば)(13)
年どしの身の衰へを思へとぞ肩うづく夜を雨ふりしぶく
この日ごろ息ざし匂ふをとめごとわがあそばねば細るこころぞ
夜の闇にあげし鋭声のかなしきを忘れがたしと告げやらばいかに
木の実すら乏しき山をくだりきて鳥けだものは田居にさすらふ
よれよれのむく犬の仔を抱きしめて雪積む夜を児は眠るなり
村の子は鳥肌だちし身を寄せて炭焼く竈の蔭に遊べる
ふる國のやまとあやしと思ひ来れば亀石の顔に夕日照りくる
生駒より葛城の嶺につらなりてかがやく雲の暮れゆかむとす
年どしの萬葉の旅にともなひしをとめらも子の母となりゐむ
みごもりてしぐさやさしき生き物はかすかに鼾(いび)く夜の闇のなか
夜はに醒めくるしむ時にまなかひに顕ちてすがしき師の面はある
師の歌を床にかかげて花ののちいよよさびしき春の夜を坐(ゐ)る
12.8.25 抱拙庵にて。