気まぐれ何でも館:(504) 岡野弘彦(海のまほろば)(12)
  
 若き日をいくさの中に過しきてすべなき癖ぞ飯(いひ)噛まず喰ふ
  
 ねむの木の花のこずゑのけぶりたつ夕べの道にいでて逢はむとす
  
 戦ひの終りたる日の海の蒼おもひてをれば身は震ひくる
  
 沖縄を思ふくるしさかの子らも地を這ふ虫も焼けてほろびつ
  
 村びとのありのことごと死にはてし焼け原のうへに石ひとつ据う
  
 海原はもの音絶えて暮れんとす何を祈りて吾は立ちゐる
  
 目とづれば胸底ふかきかなしみのふつふつとして湧きいづるなり
  
 こころむごく保ちてしばし見てをりぬ重き荷持ちて離(さか)りゆく妻
  
 鋭(と)ごころもしづまりてゆけちちははの老いの枕べにふた夜ねむりつ
  
 秋山の底ひにひとつ灯ともしてわれの家族(うから)のさびしき夕餉
  
 秋の夜の鳴き澄む虫を親と聴き帰りてゆかな修羅のちまたに
  
 悲しみを人に告げねば疲れをり陽かげりて濃くなりし青芝
  
12.8.18 抱拙庵にて。