気まぐれ何でも館:(499) 岡野弘彦(海のまほろば)(7)
  
 こころ病みて家ごもりをり咲きみつる野山の花を見ることもなし
  
 憎みつつ若き快楽(けらく)をわかちたる女をおもふしみじみとして
  
 身に毒のめぐる楽しさうつつなく馬酔木の花のかげに眠れば
  
 綾取りの指のあえかに動くさま思ひてをれば身はやりどなし
  
 うつうつと眠り薬のききそめしまなこに揺るる黄金(きん)のえにしだ
  
 長き夜の眠りのなかに幾たびかわれを誘(おび)きて去らぬ顔ある
  
 あかときを去りゆく人の黒髪の障子に触るる音を聞きゐし
  
 若からぬ身にゆらぎくる思ひもちあやふき逢ひを遂げむとぞする
  
 くれなゐの蟹を路上にひさぎゐし少年もいまは眠りたらむか
  
 まどかなる没(い)り日にむかひ眼とぢをり西方の土(ど)をおもふならねど
  
12.7.14 抱拙庵にて。