気まぐれ何でも館:(497) 岡野弘彦(海のまほろば)(5)
人を悼(いた)みて家ごもりをり咲き満ちし白き辛夷(こぶし)の色うつりゆく
連翹の黄に咲き垂るる花のかげ汝が後(のち)の世のすがた見えこよ
蝋の火を夜半にかかげて仰ぐなり佛の額(ぬか)の悲しみの色
海やまに満ちくる夕のしづけさのきはまるときを陽は沈むなり
月の夜の楢の木肌をのぼりゆく甲虫ひとつあをくかがやく
うつせ身のいのち狂ふとおもふまであはれ今年のさくら散りゆく
花昏れてにはかに深き春の闇。身を削ぎてゆくものの気配す
はてしなく心すさみて対ひゐるこの青年に何を告ぐべき
さまざまに思ひ屈して学生を裁く会議の時うつりゆく
山ぼふしの花咲きつづく山越えて買われてゆきし娘(こ)を嘆くなり
12.7.1 抱拙庵にて