気まぐれ何でも館:(496) 岡野弘彦(海のまほろば)(4)
  
 去年(こぞ)の雪まだとけがたき村に住みて國傾くることを企つ
  
 ふるさとの山峡に入りゆく夜の汽車に死なむと思ふ心耐へゐる
  
 美しく衣(きぬ)脱ぐごとく朴の木の葉おとす下にわが思ひ和(な)ぐ
  
 みづからをはてしもあらず虐(さいな)みて語る青年をわが憎みゐつ
  
 春あさき野べの葬(ほふ)りにおろおろと親が摘みゆく花摘み袋
   (著者註:未婚の娘を葬るとき、親は花つみ袋に花をつみためて、柩にいれてやるといふ。この世に生まれて、子を残さずに死ぬ者の罪をつぐなふためである。)
  
 暮れのこる残雪(はだれ)の白さ摘みためし花は袋にいくほどもなき
  
 ゆくりなく幼き春のかなしみを思ひいでつつ春の日暮るる
  
 年ごとに土筆の萌ゆるかの丘にゆきて遊ばむ清き日もなし
  
 春の日の暮るるけうとさ小半日噛みゐし烏賊の脚吐(ほ)きいだす
  
 抱かれくる孫の尻(ゐさらひ)をさなしといへどをみなの肌あたたかし
  
 親の財きよく盡くして遊びたるわが若き世ぞたのしかりける
  
 姿なきもののかなしさ亡き親は室(へや)の畳に来て坐りゐる
  
12.6.23 抱拙庵にて。