気まぐれ何でも館:(493) 岡野弘彦(海のまほろば)(1)
  
 み佛は眼とぢていますはるかなる枯野の風の音を聴くごと
  
 睦月七日遊びほほけて飽かざりしわが若き日ぞ恋ほしかりける
  
 くびられし皇子(みこ)を葬(ほふ)れるみささぎの赤松の尾に日は沈みゆく
  
 夕霧の深く垂りくる山かげになごむ家むらは檜隈の村
  
 子を連れて道よぎりゆきし小綬鶏を夜の山そよぐ時におもへり
  
 ひそまりて暮るる海原あめつちを作りしものの悲しみの湧く
  
 小さき手にランプの火屋を磨きゐしかの妹もすでに亡き人
  
 木の花の白ひたすらに揺るるゆゑ眼をおしぬぐひ窓によりゆく
  
 南(みむなみ)の島の荒磯に拾ひたる貝をわが持つ冬の机に
  
 うづ高き書物のなかにおぼほれて戦(いくさ)知らざりし人ぞと羨(とも)しき
  
12.5.31 抱拙庵にて。