気まぐれ何でも館:(492) 現代短歌100人20首(最終回)
辺見じゅん(へんみ・じゅん)1939~2011.
みひらけば空のわたつみ漕ぎきたる誰れの櫂かな朴の花咲く
通り雨たちまちすぎてあさがほの紺のほとりに髪洗ひをり
くれなゐの椿を焚くは誰ならむ近づきゆけどわれには見えず
一枝の櫻見せむと鉄格子へだてて逢ひしはおとうとなりき
春日井健(かすがい・けん)1938~2004.
友に神ありわれに神なきあけくれに柘榴はひらく朱の古代花
鴨のゐる春の水際へ風にさへつまづく母をともなひて行く
佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)1938~。
夏の女のそりと坂に立っていて肉透けるまで人恋うらしき
泣くおまえ抱(いだ)けば髪に降る雪のこんこんとして腕(かいな)に眠れ
一国の詩史の折れ目に打ち込まれ青ざめて立つ柱か俺は
父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色(こんじき)の獅子とうつれよ
フェルメールの町と思えば尖塔の上なる雲の銀のかそけさ
一生を一所と決めて疑わず俺は俺だと立ちあがる幹
浜田康敬(はまだ・こうけい)1938~。
動くこと美しければチェロ奏きのチェロの高さにのどぼとけ見ゆ
かけ終えし巣にみずからをしばし置き縛(ばく)されしごと蜘蛛は動かず
12.5.27 抱拙庵にて。