気まぐれ何でも館:(491) 現代短歌100人20首(33)
成瀬有(なるせ・ゆう)1942~。
匂ひ鋭(と)く熟るる果実をわが割(さ)くをまどろみのなか夢に見てゐつ
苦しみの殻とくごとくかがやきをまとひて咲けり今朝の白木蓮(はくれん)
恋ふといふしづけき思念、枕べに夜もすがらなるこほろぎのこゑ
藤井常世(ふじい・とこよ)1940~。
いかづちは地にやや近き空にありて大音声にこの世を叱る
来世あらば濃色(こきいろ)のうつくしき馬 しろつめ草の露にぬれつつ
玉井清弘(たまい・きよひろ)1940~。
こぼれたる鼻血ひらきて花となるわが青春期終りゆくかな
陶工もかたらずわれも語らざりろくろに壺はたちあがりゆく
高層のビルの電話に呼びいだす家族といえるやさしきものを
かがまりて向かえばかなし父に似るつめたき仏のまなじりぬぐう
厠なるスリッパうるわしく整えり明治の男いでたる後に
12.5.20 抱拙庵にて。