気まぐれ何でも館:(488) 現代短歌100人20首(31)
久々湊盈子(くくみなと・えいこ)1945~。
愛しあうものらの肩に霜ふりて天上をゆく真冬の星座
『夜が明けたら』乗るべき汽車の一枚の切符失いて十年を経つ
咲きあふれ天になみうつさくらばな満ちたることはかくもさびしき
過ぐる夏われにもありし愛恋のいたみのごとし櫨のもみじは
日曜の午には揃う家族にて鍋いっぱいに乾麺ゆがく
いつの日か失うために育て来し娘(こ)につまだちてリボンを結ぶ
遠い未来に必ず訣れがあることを疑わずされど日々に思わず
百近きちちが嘆きは残年の短さならずひと日の長さ
小嵐九八郞(こあらし・くはちろう)1944~。
脂(あぶら)滲む毛布に潜(もぐ)って寝る癖を看守咎(とが)めりいつ泣かむもの
菜の花の風に揺られるブランコが必ず届かね恋をしたど、空(そら)に
馬市さ黒馬(あお)は売られて肉だども頬ずりするなすがしいまなぐ
12.4.22 抱拙庵にて。