気まぐれ何でも館:(476) 現代短歌10人20首(19)
今野寿美(こんの・すみ)1952~。
木染月(こそめづき)・燕去月(つばめさりづき)・雁来月(かりくづき) ことばなく人をゆかしめし秋
だまし絵に騙されてゐるいつときが思ひのほかの今日のしあはせ
ゆふぐれの鶴はをみなにて胸さむし胸さむければひと恋ふならむ
みどりごはふと生(あ)れ出(い)でてあるときは置きどころなきゆゑ抱きゐたり
水無月の光を曳きて雨は降る水から生まれしものたちのため
鳥の目はまどかなれどもものいはずくいくいと見て見ぬふりをする
昔たしかにありし言葉のはかなさの<風焼(かざやけ)>とふ空は忘れて
熊蝉がしゃぎしゃぎしゃぎとおしつつむ忘れじとして忘れゆく夏
武下奈々子(たけした・ななこ)1952~。
ゆふぐれは精霊蜻蛉・糸蜻蛉かそけき名もて飛びかひにけり
いましばし陽は射しゐたれいとけなき春風童子草に眠るよ
縞目濃きくちなはすべるたまゆらの草の上の風 風の上の雲
時じくに雪ふる国の春をとほみ童女と歌ふてふてふの歌
谷ごとに花をかかぐる朴の木の若木(わかぎ)はちから老木(おいぎ)はふかさ
柿の実が柿の甘さに辿り着く時間(とき)の豊かさよ日当たりながら
12.1.28 抱拙庵にて。