気まぐれ何でも館:(475) 現代短歌10人20首(18)
柳宣宏(やなぎ・のぶひろ)1953~。
こんなにも山のさくらが美しい去年の春にひとたび死んで
このごろはすこし呑気になりにけり馬鹿になつたと言ふ者もある
杉の木が立つかたはらを過ぎてゆく触れあつたのはふたつのいのち
日を浴びてもみぢが谷へ落ちてゆくそれは終りといふことぢやない
あたらしい草が地面に生えてきた嬉しいことはどこにでもある
糸川雅子(いとかわ・まさこ)1952~。
生活の浪にあらわれしなやかにそいくるものを思想と呼ばん
飢うるなき昭和のたそがれ 二人子は逆光にまぎれ母へ寄りくる
空さむく春めぐりきてははそはのははそはのははと桜ちりゆく
定型のしなやかな背に掌をおきてならし撫でつつわれは甘ゆる
いちにんの夢をたもちて立ちつくすほのかなしろさをさくらとは呼ぶ
コンソメに銀のスプーンを沈ませつ銀河はすこしくわれにかたむく
語るよりふかく思えと歳月は小庭の砂となりてささやく
12.1.22 抱拙庵にて。