気まぐれ何でも館:(457) 高安国世秀歌鑑賞(最終回)
かすかなるけものとなりて我の居つ昼の鳥夜の蛾と交わりて
朝あさを籾の中よりさぐり出すかそけき狩のごとしりんごよ
粗い板で作った長方形の木の箱に、籾殻と一緒に詰め込まれた、香り高いりんご。それを朝あさ手探りで取り出す時の心の弾みを「かそけき狩」のようだと表現した。
樟脳の香をまとうひとも混りつつにわかに寒き朝(あした)の電車
箪笥にしまってあったオーバーコートの防虫剤の匂い。なにか人懐かしいような、幼い頃を思い出させる匂いなのである。
曲り角知り合いの犬と出会いたり間のわるき顔を一瞬したり
揉まれつつバスに入り来し処女子の黒髪の上にしばしある雪
北白川から四条河原町までのラッシュ時の市バスのひとこまであろう。雪の中を急いできて小さく息をはずませているような少女の髪の上に、すぐに溶けてなくなるであろう雪に目を止めている作者の暖かい眼差しが感じられる。
赤き実を残らず食(は)みて小鳥らは楽しく山に帰り行きしや
まどろみに微か雨垂れを聴きしかど今しとどなる雨となりおり
早春の春を呼ぶ雨であろう。眠る前にかすかに雨垂れの音を耳にしたのだが、まどろみから覚めてみると本降りになっていた。
みがかれて墓石売らるる傍らを命延びたる我ひとり行く
未刊歌篇の「病後」一連九首の末尾におかれた歌。
いまだ目にさやかならねど落葉松の芽吹きの気配森に満ちたり
作られたのは死の直前と思われる。
11.9.18 抱拙庵にて。