中村弓子さんは東大出のお茶大教授(フランス哲学)である。

草田男が介護が必要になったとき、他のお嬢さんはまめに介護するのだが、彼女はそういうことはあまりしないで理屈を言うので、「秀才」と彼に言われていたようである。しかし、父・息子のような付き合いがあって、この本を内容の濃いものにしている。

草田男は「萬緑」を主宰していて、「万緑の中や吾子の歯生えそむる」や「降る雪や明治は遠くなりにけり」はよく知られているが、人間探求派の一人として、結構難しい句を作っている。

その句の作り方であるが、「歩いてくる」と言って出かけて行き、独特のものを凝視する視点があったようである。美術館に行っても1つ1つの絵を凝視したらしい。著者が他の絵を見終わっても、戻ってくるとまだ見続けているという風であったようだ。絵と溶け合い、同じ空間を共有していたのではないか。

草田男は人間探求派ということなのであるが、その探求を自由にさせていた奥さんがスゴイ。相当なピアノ演奏の天分があったらしいが、きっぱりと捨てて、天才草田男に入れ込んだのである。

故郷では預言者は受け入れられないものだそうだが、草田男は家庭は恵まれたものであったようである。