非常に面白い本であるが、この手の本は寝ながら読むので、最近いろんな本を読んだせいで、目が痛くなり、昨日くらいからよくなったので、今日読み終えた。

山崎方代はわりと最近知られるようになったが、俳句の山頭火や放哉と近い人生を送った歌人である。

山頭火も放哉も無季語非定型の俳句を作ったが、方代も一風変わった短歌を詠んでいる。私には味があって好きな歌が多い。

私などはろくでもない歌をさらさらと作るのであるが、自分の心情をそのまんま吐露している。ところが方代は、ノートに断片を書き連ね、それらを組み合わせたり、気分でひょいと思いついたことをはさんだり、とにかく推敲に推敲を重ね、あることないことないまぜの、文学として独立した一個の短歌をひねり出す。要するに写実とか写意とは違うが、味わい深い彼の人生の断面を表す作品になっている。

 わからなくなれば夜霧に垂れさがる黒きのれんを分けて出でゆく

 ゆくところ迄ゆく覚悟あり夜おそくけものの皮にしめりをくるる

 白い靴一つ仕上げて人なみに方代も春を待っているなり

 茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ

 柚子の実がさんらんと地を打って落つただそれだけのことなのよ


3首目を読むと想像がつくかもしれないが、2首目のけものの皮とは革靴のことで、当時靴磨きや修理のアルバイトをしていたようだ。