目次

  • 一章 共生の神学について
  • 二章 哲学と科学について
  • 三章 進化論について
  • 四章 資本主義と社会主義について
  • 五章 地球環境の問題について
  • 六章 大衆社会と民主主義について
  • 七章 共生主義について
  • 八章 教育について
  • 九章 総まとめ

自著解説

     この本は共生学の教科書として書かれた。教科書であるから、問題点と思えることを網羅的に扱っている。ただユニークな教科書である。
     先ず一章は共生の神学についてである。日本人はそうでもないが、世界全般を見渡すとき、自分の信じる宗教にこだわり、共生の障害になっていることが多い。ここでは普遍神学とでもいうのか、宗教を原罪の克服ととらえている。そして原罪を個人的な原罪と社会的な原罪とに分けて考え、前者は反省を重ねていくことによって克服できることを筆者の経験に基づいて言明している。そしてそれを克服することが先決で、それから後者の原罪ーーこれこそ共生を阻む悪玉で、一筋縄ではいかないので皆の衆の力が必要なのであるがーーの克服に衆知を結集して立ち向かうべきことを呼びかけている。この原罪を二つに分けて考えることは、今後重要になるかもしれないと、数学者でエッセイストの藤原正彦氏は指摘している。
     ではどうやったらいいのかを、問題点をあげながら一章では簡単に例示している。しかしそうは簡単にはいかないので、後の章で歴史的背景などや、論争点などを詳しく説明している。ちょっと難しい内容を含むが、共生を志す人はこれくらいの基本的知識を持って、共通の土俵に立とうではないか、というのが問題を錯綜させないための必要条件であると筆者は考えている。
     二章は哲学と科学についてであって、両者の歴史を振り返りながら、結局哲学は現代の難問である共生ということに答えようとせず、科学は技術と一体化し、状況をますますややこしくしていく傾向があるが、これからおこる、おこりつつある本物の科学に期待を寄せている。
     三章は進化論についてであって、ダーウィン流の進化論を進化のマイナーなプロセスを説明するものに過ぎないとし、池田清彦流の構造的進化論を主に解説している。進化論を否定するにしても、肯定するにしても、構造的進化論からいえば単なる解釈の相違で、どっちに考えても矛盾しないことが明らかにされる。
     四章は資本主義と社会主義についてであるが、資本主義が社会主義に勝ったと言えるかもしれないが、その資本主義も市場原理と共生原理をバランスさせる共生主義というものに脱皮していかないと将来は危ういと説く。
     五章は地球環境問題についてであって、一通りのことを述べているが、環境をダメにしたのも科学技術なら、環境問題にメスを入れたのも科学であることを指摘している。
     六章は大衆社会と民主主義についてであるが、大衆社会になり、そこに民主主義が根付くまでには大変な時間と犠牲を払っており、これから市民を中心とした自由で充実した市民福祉社会(福祉国家とは違う)にしなければならないことを述べている。
     七章の共生主義については、今後の問題とすべくアウトラインを述べるにとどまっている。議論の巻き起こることを望むものである。
     八章の教育については、比較的古い文献に基づいているため、やや陳腐な議論に終わっているが、競争でなく学び合い競い合うことを生涯かけて行い、自己実現することを個人のあるべき姿とし、そしてそこで培ったものを社会的原罪の克服(共生の実現)に向けるべく、皆で力を合わせようと説いている。
     筆者は数学者であり、論理的に、時には数学も織り交ぜて、しかし直感的に分かるように話を進めているが、それをたどりつつ自分なりに考えながら読むと三日位かかるしんどい本ではある。しかしこれから指導的立場に立とうとする若い人、指導的立場にある30~50代の人に訴えようとして、筆者は三年半、渾身のアホぢからを振り絞って書いたのである。この本を読めば、100冊の本を読んだことになるお得なおすすめ本である。

     http://homepage3.nifty.com/kyousei/kyousei.html