「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が完成したのは、1867年である。上演時間は約4時間20分
(第1幕:80分、第2幕:60分、第3幕:120分)位だそうだ。上演時間が長いと演奏者も歌手・役者も
大変であろう。良く、音楽的には全音階和法を用いていると解説書等には書かれているが、これは
どういう技法なのだろう。古典派では「カデンツの法則」に則った和音と和音の構成(正統なコード進行
とでも申しましょうか)が基本と崇められていたが、ロマン派になると内部転調が頻繁となり、元々
基調とした調感が希薄となったことを差すのだと思う。従って、ハ長調にも関わらず、曲の途中で構成
する和音が変わることで、この曲自体がハ長調であること自体がもはや無意味、という状態になって
きたということだろう。「ニュルンベルクのマイスタージンガー第一幕への前奏曲」で考えてみよう。
この曲構成は古典的なソナタ形式であり、冒頭はハ長調、「マイスタージンガーの動機」が悠々と提示
される。この旋律は躍動感があって大好きだ。


完全4度跳躍下行にて、同音反復する(息継ぎかとも思える感じだが・・・)。Eからその上のEまでの
1オクターブを順次進行し、さらに上昇してF→Cへ完全4度順次下行する。低声部はこれに追随して
臨時記号のない全音階進行となる。しかし、第2小節第4拍から第3小節第1拍にかけて不協和音
(AとGの干渉)があるため、ここに音階固有音でないC#音を導入してA上の属七和音を形成する
(せざるを得ないのが正しいかも知れない・・)。定石としてはこの和音からはニ音上の短三和音への
進行が安定と思われるが、ハ長調のままでニ短調には転調しない。これが、全音階和法だ。
言われて見ると、なんだそんなことか・・と思えなくもない。
さて、スタジオ録音による「ニュルンベルクのマイスタージンガー第一幕への前奏曲」の演奏として
素晴らしいものは何だろう。通には、ケンペ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が浮かぶかも知れないが、私は、ショルティー指揮シカゴ交響
楽団を推薦したい。
カラヤン指揮ベルリン・フィル版もいいとは思うし、皆さんの評価も高いようだが、
カラヤン指揮ベルリン・フィル版もいいとは思うし、皆さんの評価も高いようだが、個人的には申し訳ないが、重厚さ、表現力と
全体構成、楽器の絡み合いの観点からは
ショルティー版がベストに思う。
フルトヴェングラー版も試したが、やや
あっさりして私の心には響かなかった。
カラヤンには絶対的崇拝者が多いが、私は
信者ではなく、どちらかといえばアンチ派に
近い。華麗で俗に言うツボを得た演奏が
魅力といえば魅力であるが、一方、あっさりして人間臭さや深みがない。どうも人気に媚びた感じが
して気持ちが込み上げて来ない(感情が伝わらない)と感じる時があるからだ。中学生時代に良く通
っていたレコード店の店長がカラヤンの事が派手好きで嫌いだったことも影響があるかもしれない。
なお、楽劇の最高傑作である「ニーベルングの指環」は1874年に完成し、バイロイトで華々しく上演
された。元来、4夜での通し上演を前提としている様だが、演奏家・聴衆の疲労を考慮し、バイロイト
でも最近は2日の休みを入れた6日間で、また、一般の歌劇場では更に間隔をあけて上演されるよう
だ。これでも厳しいな。よく集中力が続くものだ。感心する。尚、ワーグナーは自身が演出したこの
初演にひどく失望して、再度の上演を強く望んだらしい。「一生涯の大作」の初演が失敗であることを
自分で認めたのだ・・・。あら、意外に謙虚だな・・。余程、大きな間違いをしでかしたのだろう。
ところが、多額の負債等の理由で再上演は念願叶わず、このまま音楽家としての生涯を終えて
しまった。天才音楽家にとっては、本当に冴えない幕切れとなった。
