著者: 浅田 次郎
タイトル: 壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2

いいかげん小説の書評をせんかいこらー、ということで、今日は『壬生義士伝』をご紹介。

『鉄道員』(ぽっぽや)なんかで有名な浅田次郎さんの作品で、幕末に活躍した新撰組を題材としています。

実はこれ、ドラマや映画にもなってまして、私は……一昨年だかその前だかの大晦日10時間スペシャルで、ドラマを見たのです。最初に。(実は、これで伊原剛志さんが土方役をやっていて、それで好きになった) そうしたら、あまりにも面白くて。これは原作も読まねば、と。

新撰組を題材とした作品を多くありますが、これはその中ではめずらしく……というか唯一? 近藤や土方でもなく、組長の誰かでもなく、吉村貫一郎を主人公としています。もちろん、近藤や土方も大活躍してくれますが。

吉村貫一郎は、妻子を養うため、ひとり上京してきて、伊東甲子太郎入隊後という、比較的遅い時期に新撰組に入隊。腕を見込まれて、諸士取調役兼監察という役職につきました。妻子のため、守銭奴と呼ばれながらも金を得ることに腐心する貫一郎。しかし皆様ご存知の通り、新撰組は悲劇的な最期を迎えるのです。貫一郎もまた、新撰組として鳥羽伏見の戦いに参戦するのですが……。

新撰組という組織の異常さと哀切さを、これだけ見事に描き出した作品は、ほかにないのではないかと思います。不敬を承知で言いますが、あの司馬遼太郎先生でさえ、新撰組をこんなふうには描けなかった。浅田さんは、近藤・土方ら新撰組幹部とは微妙に距離を置いた人物を主人公とすることで、それを表現することに成功したのではないでしょうか。

余談になりますが、新撰組は歴史の研究対象として軽く見られがちです。それゆえ、あまりに優れた歴史作家である司馬先生には、こういうふうには新撰組を描けなかったのだろうと思います。私は、新撰組入門書としても、司馬先生入門書としても、『燃えよ剣』はお薦めできないと思う。

『壬生義士伝』に話を戻します。この小説は、鳥羽伏見後、生き残った新撰組隊士の語りと、吉村貫一郎自身の独白とで構成されていて、ひとりひとりの語り口に味があります。しかも……浅田さんは人を泣かせるツボを心得てるとしか思えないのですが……この小説の泣けることと言ったらさー……! もうほんとに……「どんだけ私を泣かせりゃ気が済むんだ浅田次郎ー!」みたいな。(失礼) 涙もろい人は、電車なんかで読んではだめです。






……で。こんなことを書くと興ざめする方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの「妻子のために……」という吉村像は、実は子母澤貫のでっちあげ、です。本当の吉村には、妻子はなかったそうで。子母澤さんは、自分が新撰組隊士、もしくはその関係者から聞き取りをしたと称して、いろいろとでっちあげてくれちゃってるので(汗) 司馬先生の『燃えよ剣』も、ずいぶんそのとばっちりをくっています。

でも『壬生義士伝』は新撰組をほんとうによく描いていると思うし、ほんとに最高の物語なので、そのあたりは気にせずに楽しんでいただけたら、と思います。泣きたい人におすすめ。