ある日 小学生になった次男の担任の先生からの連絡をうけ


則子はあわてて 学校へ向かいました。


次男が 同級生と喧嘩をして 無抵抗の相手の児童を 殴り続けたというのです。


則子は幾度も頭を下げ、同級生の家庭にも謝罪に伺い、ただただ、申し訳ございませんと繰り返しました。


幸い、担任の先生も同級生の親も 男の子だからと 則子や次男を咎めたりしませんでしたが


則子は あまりにもショックで 思わず泣いてしまいそうなのを必死にこらえていたのです。


次男と手を繋いで 帰る道すがら 夜空には小さな星が輝いていました。


則子はこらえきれず 流れはじめた涙を次男に見せたくなくて 


次男をおんぷして ゆっくり歩き始めました。


「どうして ゆうくんに 乱暴したの?」


則子は とても とても 静かな声で ゆっくりと訊ねました。


次男は 少し考えて 一言 答えました。


「似てるから」


「だれに?」


「黒い影のひと 死んだひと 壁から出てくる 白い帽子のひと」


則子は こころが凍りつきました。


亡くなった長男が愛用した白い帽子が数日前 いくら探しても見つからず


不思議におもっていたのです。


則子が見つけたとき その帽子は原型をとどめていませんでした。



則子は そのとき、初めて 大声を出して 泣きました。


泣き出すと止まらず、もう次男のことも なにもかも 忘れて 大声で泣きました。


次男も驚いて泣き始めたのですが、則子は それには一切構わず大泣きしました。


世界なんて壊れてしまえばいいのに。


則子は世界のすべてを恨みました。


自分がなにも文句を言わないことをいいことに こんなことまでして それでも平気な世界が


どうしても許せませんでした。


誰よりも優しかったあの子を自分から奪って それで平気な世界なんて壊れてしまえばいいのに。




その後も 次男の奇行はエスカレートしていき、則子は 精神科につれていったり


習い事をさせたり、思いつく限りあらゆることをしました。


しかし、次男は口数が減るばかりでした。



つづき