昔、青木さんはヤクザだったそうだ。
今はヨボヨボのお爺ちゃんになって、昔の面影はないけれど、それでもこわもてで黒いサングラスに、焦げ茶の着古した革ジャンを着ている姿はちょっと近寄りがたい。
でもそんな青木さんを女性のデイサービスの職員はみな『順ちゃん』(名前を順一という!)と呼んで親しんでいる。
なぜかとというと、青木さんはめっぽう女の人が好きなのだ。
朝送迎車から降りて、女性の職員に掛ける言葉が『今日も可愛いね』だなんて言うから、女の人たちは陰でこっそり笑っていたりする。
青木さんにはお話し友達なんて者はいない。見た目が怖いから職員以外誰も近づかない。だからひとり席でお茶をしている。
青木さんは女の人と同様、お風呂がとても大好きだ。お風呂に入る順番がくると、職員に手を引かれおとなしく風呂場にゆく。
そして女の職員に体のすみずみまで洗ってもらい、綺麗にヒゲも剃ってからお湯に浸かる。
『順ちゃん、お昼ご飯だからもう上がろう』って言われても、まだお風呂から上がらない。
けれど、そんな青木さんも寄る年波には勝てなかった。まず食事を食べなくなって少しづつ、少しづつ痩せ細っていった。
食べても、硬いお肉やなんかを吐き出してしまい、ほとんどご飯やおかずには手をつけなくなった。
みんな、なんとかしようとしたけれど、どうしようもなかった。そうしてしまいには施設に来れなくなった。
青木さんが施設に来れなくなって、寝たきりになり、ついには“看取り”になったと聴いた。
一日に氷水しか口にしなくなり、ガリガリに痩せ細り死が間近に迫っていた。
それからしばらくして、青木さんが亡くなったと風のうわさで聴いた。
夜中にひとりでひっそりと。
僕は心の中で『青木さんまたね』、と呟いた。