大多数の人間は、「展覧会の絵」は、ラベルがオーケストラ用に編曲した「管弦楽曲」を最初に聞いたのではないかと思う。ムソルグスキーの元曲がすばらしいのは、わかっているのだが、ラベルのオーケストレーションのみごとさに圧倒され、満足し、その人にとってこの作品は、一生の「宝物」になってゆく。やがて、オリジナルのピアノのソロを聞く機会がおとずれる。オリジナルを初めて聞くと、どうしても違和感を感じてしまう。オーケストラのダイナミズムと色彩、そして、ある程度画一化された演奏に慣れてしまった耳は、小さな音とソリストの個性の強いピアノ・ソロになかなかなじめない。僕がそうだった。これを解消するには、何度か聞くしかないと思う。以前、バン・クライバーン国際ピアノコンクールに優勝した辻井伸行のドキュメンタリー番組があった。彼は、コンクール優勝後の新たなチャレンジとして、「展覧会の絵」を選んだ。実際に絵を見ることのできない彼には、曲をイメージする作業が大変むずかしかったようだ。