哲学入門と人生

演劇論などジャンルを超えた活躍で
知られた哲学者で、
明治大名誉教授の
中村雄二郎(なかむらゆうじろう)さんが
26日、老衰のため死去した。
91歳だった。
※読売新聞より
▼敗戦の衝撃
中村さんが哲学を志した
きっかけこそが興味深い。
大正14年(1925年)
現在の東京都で生まれ
旧制高校時代は理系を専攻。
ところが1945年の敗戦を契機に、
彼の人生は全く違う方向へと
進むこととなる。
▼価値観の崩壊
つまりそういうことだ。
昨日まで「鬼畜米英」と罵倒していた
国民はもちろん、
学者や知識人までもが
敗戦を境に
「模範とすべき典型的な民主主義国家」
と自ら進んで唱える。
その変わり身のあまりの速さが
彼の人生を大きく揺るがしたのだ。
信念や信条と密接に結びつく種の
言葉の意味合いがこうも簡単に
変化するなんて。
「それからというもの、わたしは
人々についても、事物についても、
簡単には信じることが
できないようになった。」
後の著書でも述懐している。
▼哲学のワクワク感
確か中学か高校の時の
社会科か何かの授業だったと思う。
僕は授業中にも関わらず、
言葉にできないほどのワクワク感で
胸がいっぱいになった。
それこそが僕が認識するなかで
生まれて初めての“哲学”との
出会いだった。
「なぜ僕たちは生きているのか」
「なぜ僕たちはここに存在するのか」
テーマの一つひとつを
深く掘り下げれば掘り下げるほど
日常生活の些事が
益々どうにでもよくなる、
その落差が堪らなかったのだ。
以降、社会人になるまでの間
僕は古代ギリシア哲学から形而上学
現象学から実存主義、
プラグマティズムに至るまで
様々な種の哲学書を読み漁った。
▼哲学入門と人生
その中でも中村さんと言えば
著書「哲学入門」に代表されるように
難解でつかみどころのない
哲学の分野を様々な切り口で
分かりやすく、そして興味深く
取り上げた哲学者として印象深い。
当初はフランス哲学を専攻していたが
やがて人間の生の根源である
“情念”を軸にした論考を展開。
21世紀に突入すると
「日本人にとって宗教とは何か」
「テロは世界を変えたか」
「命とは何か」など、
机上の空論ではない、生きた学問としての
哲学を重視し、
その姿勢は多くの人の共感を誘った。
僕も“自称”人生研究者の一人として
改めて彼の生き様に敬意を表したい。