ベックフォード「さぁ。報酬を与えよう。まずは何から答えればいいかな?」ゴキッゴキッ(首を回しながら身を乗り出す)

ムーア「・・・・何を打ったの?」ゴキッゴキッ

ベックフォード「特効薬とでも言おうか。狩猟世界でいうところの秘薬・・それ以上の神薬といおうか・・・時間を無駄にするな。報酬に纏わる質問を」フゥーーーーーー・・(整ったかのように深く息を吐く)

ムーア「・・それじゃあ・・まず・・・・」トントントン・・(落ち着きなくテーブルの上を右手の指で小刻みに打つ)

ベックフォード「なんだ?考えてこなかったのか?」フゥーーーーーー・・(瞑想するように両目を閉じながら)

ムーア「うるさいわね。こっちはいろいろあって大変なの。自分のことを考えている余裕なんて・・」トントントン・・

ベックフォード「急げばニックマン・ヴァイデンフェラーとシオン・プラウズを追いかけることができるぞ」フゥーーーーーー・・

ムーア「・・あんた、こうなると分かっていて試したのね?」

ベックフォード「試す?何をだ」フゥーーーーーー・・

ムーア「とぼけないで!!」ダンッ!!(右拳でテーブルを叩く)

ベックフォード「・・・・・・・・。私は何もしていない。クエストの過程で君達が見出した結果が現在なだけだ」(静かに両眼を開け、こちらを見つめる包帯に覆われた瞳は充血しておらず、実に澄みきっている)

ムーア「・・・・あんたは何者なの?」

ベックフォード「君の推測は?」

ムーア「質問に素直に答えるのが今のあんたの仕事」

ベックフォード「そうだったな。何か飲むか?」

ムーア「いらない」

ベックフォード「ふぅ・・・・いいだろう」スッ・・(リラックスした様子で車椅子の背もたれに深く背中をつける)

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ガタン・・(腕と足を組みながらこちらも椅子にふんぞり返る)

ベックフォード「私の名前はヴィンセント・ベックフォード。つまりジェイソン・ウーの影武者だ」(天に告白するように両目を閉じながら顔を上げる)






Recollection No.5_113






ムーア「ヴィンセント・ベックフォード・・・・じゃあ、あんたが板長とおトキさんを神殿に・・」

ベックフォード「吾郎さんに関しては私の独断だ。神殿に向かう途中だったおトキさんを馬車に乗せるよう命じたのは・・」

ムーア「本当のジェイソン・ウー・・・。彼は今・・・ちょっと待って。まさかあんたが・・?」(身構えるように椅子から身を乗り出す)

ベックフォード「邪推はよせ。私は彼に・・ジェイソン・ウーに命じられ、長い間、影武者を努めてきた。最も、その過程に何人もの命を犠牲にはしたがな・・」(目を閉じながら俯く)

ムーア「秘密を守る為・・・・どうしてジェイソン・ウーは?」

ベックフォード「今の私のように敷地内だけの生活を余儀なくされていた彼は、自由を求め、そして神殿に入ったのだ」

ムーア「・・ちょっと待って!その神殿って・・・・じゃあ、おトキさんと一緒に・・!?」

ベックフォード「そうだ。彼、フランク・ヴューラーは彼女と同期だ」

ムーア「はぁ・・・・・・・・・・・・・・・」ズルズルズル・・(天を仰ぐように顔を上げながら椅子の上で崩れ落ちていく)

ベックフォード「彼は偽名を使い、素性を偽り、君の父上と母上、そしてルチア達と一緒に神殿で新たな人生を歩み始めた。元来、彼は優しい性格の人間でな・・・自らを誑かす為、わざと権威に溺れた生活を振る舞ってみせてはいたが、心の奥底では常に反発していたのだろう。その証拠に、取り立てや過度な暴力行為は当時の執事であった私の恩師に一任していた。向いていなかったのだよ。ウー家の仕事には。彼の父親もまた、そんな息子を非難していたらしい」

ムーア「その父親って拷問部屋・・応接間の肖像画の人?」

ベックフォード「いや。あれはそれよりも先代の当主と聞いている。ジェイソンは父親に対して大きな憎しみを抱いていたからな。父親の肖像画など、彼の葬儀の際、遺体と一緒に燃やしてしまったのだろう。生まれた時からウー家の次期当主として因果を受け入れ、やりたくもないことを常に強要され続けた結果、ジェイソンは自分の心に素直になれない陰湿な人間になってしまっていたのだ」

ムーア「今のあんたと同じ」

ベックフォード「そうだな・・全くそのとおりだ。ただ、彼と私の場合では流れが逆だがな・・・」フッ・・

ムーア「・・・・・・??」(訝しげに眉をひそめる視線の先では、全身包帯姿の痩男が自分に言い聞かせるように深く何度も頷いてみせている)

ベックフォード「絶望の淵に手を染めていた彼は救われたのだ・・・・・・信仰を抱いたかのように・・・・そうさ・・・彼女こそが女神だったんだ・・・・我々には・・・・」(うつ状態になるかのように項垂れていく後半の台詞は、視点主が聞こえるか聞こえないくらいのボリュームになっていく)

ムーア「ちょっと。だから勝手にダウナーに・・」

ベックフォード「そして神殿での暮らしが彼の心を浄化していったんだ!!」ガバッ!!

ムーア「ひっアセアセ

ベックフォード「君の父上に感化されたジェイソン・ウーことフランク・ヴューラーは親愛なる隣人達に支えられ、導かれるがままに狩人を目指し、その目で未だ見ぬ世界を知るべく、自ずと下山していった・・・・・・・この私に内緒でだ!!!!!」ダンッ!!

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ベックフォード「神殿で皆と過ごしたあの任命式の夜、あの男は私に世継ぎを残せとぬかしてきた!!しかしそれは冗談ではなかったのだ!!あの男は最初から逃げ出すつもりで私を人身御供にしたのだ!!その事をルチアも・・そしてあの御方も承知だったのだ・・・・・私はそれが心底許せない!!!!」ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!(包帯に巻かれた頭部の額を何度も机に叩きつける)

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!(眉を潜めながら躁鬱激しいその様を見つめることしかできないようだ。またこの光景が先程の特効薬の影響であることも窺える)

ベックフォード「はぁ・・・はぁ・・・・私がどんな思いでウー家を支えてきたのか・・・・残虐非道を繰り返し、時には秘密を守る為、何の罪もない少女にも手を下したこともあった・・」ガクン・・・(脱力感が襲ってくると共に額を机に打ち付けたまま項垂れる)

ムーア「外街で行方不明になった少女・・・」コクリ・・(包帯姿の男は机に打ち付けた額を引きずるように頷いてみせる)

ベックフォード「外街であの子と遭遇したジェイソンが情けをかけたのだ・・・屋敷に来るようにと・・・・とんだ遺産を残された私は、何度も彼に・・本当のジェイソン・ウーに会う為に屋敷を訪れてくる無垢な外街の少女に対し、子供だましの嘘をついては追い返していた・・・それを繰り返せば良かったのかもしれない・・・だが、何度も見過ごすわけにはいかなかったのだ・・・」

ムーア「・・その子が・・本物のジェイソン・ウーの顔を知っているから・・?」

ベックフォード「そうだ!!前任者の顔を知る証人だったからだ!!覚悟を決めた私は、衛兵に見つからぬよう彼女を屋敷へ誘い込み、そして地下室で・・・・・・・あの子をこの手で殺めた瞬間、私は先代が求めていた真のジェイソン・ウーに生まれ変わったんだ・・」

ムーア「・・・・・・やっぱり。ろくな屋敷じゃないわね、ここは・・・」(目を背ける)

ベックフォード「正式に主よりウー家を、新たなジェイソン・ウーとなり、王都の権威を握った当時の私は野心に満ち溢れ、目的の為なら手段は選ばなかった・・。かつて師が自分と同じ道を歩むなと警告を下さり、そしてチャンスをくれたにも関わらず、私は同じ轍を踏んでしまったのだ・・!あの男は私に師、ヴィリエと同じ運命を辿れと強要したのだ!!」ギリギリギリギリッ・・!!(打ち付けた額を机に強く擦りつける)

ムーア「・・・追跡はしているの?」ギリギリギリギリッ・・

ベックフォード「もちろんだ。だが、奴は既にシュレイドを抜け、未開の地へ消えてしまった・・・・偽名に偽名を重ね、年齢から察するに今頃は狩猟生活から引退している頃だろう・・・・世界は広い・・・・今の私にとっては広すぎるのだよ、キャロルムーア・・・・」

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ベックフォード「しかし、ジェイソン・ウーになって得したこともあった。ローゼンクロイツを説得し、外街に学園を建設できた時は、心から嬉しかったものだよ・・・・」

ムーア「・・嘘・・・・オーロラ学園の設立にあんたが関わっていたの・・?」

ベックフォード「正確には前任者の命令を実行したまでだ。フランク・ヴューラーとなったジェイソン・ウーは義侠に生きる男に生まれ変わっていたからさ。それもこれもアースラ、君の母親とアーロン・ロザリー、君の父親、二人の影響が強かったのだろう・・」

ムーア「ちょっと待って。アーロン・ロザリー?私のお父さんは・・」

ベックフォード「バーニー・ブラント。そう聞かされているのだろう。だが、それは偽名だ」

ムーア「・・・・・・・・・・・・・まさか・・・そのロザリー家って・・」

ベックフォード「そうだ。忌まわしきシュレイドの暴君、デーモン・ロザリーの末裔。それが君だ。キャロルムーア・ロザリー」


To Be Continued






★次回ストーリーモードは11/5(木)0時更新予定です★