ジーナ「・・・・・・・・・・・」(沈黙を貫く視界に映る長方形の食卓正面、やや遠くの席で身を乗り出しながらこちらを熱い視線で見つめているジェイソンの鬱陶しい姿)

ジェイソン「今も変わらぬその美貌・・・・現状の恋愛に朽ちた哀れな男が、久しぶりに再会したかつての彼女に同情の共有を強要させる為、よく使われる口説き文句だが・・君の場合、それが本当なんだからその言葉に嘘はないことになる。そしてまた、デーモン・ロザリーもそう思っていたに違いないだろう」




Recollection No.1_21




ジーナ「確かに興味深い仮説かと。ですが・・」

ジェイソン「証言なら得たよ。なにせ一番近くに君をよく知る人間・・いや、獣人がいたんだからね」クッ(勝ち誇ったようにワインを飲む)

ジーナ「・・・・カーンさん・・。彼に何をしたのです?」(厳しい口調で問いかける。同時にスヘイラも何かを悟ったように素早くジェイソンの方に首を向ける)

ジェイソン「私事なんだけどね・・閉鎖された屋敷の世界だけで暮らしていると、どうも嗜好が偏りがちになってしまってね・・。若い頃は邸内にたくさん女性を寄せ集め、毎夜のようにパーティーに明け暮れた時期もあった。まぁ、今もそれはよくやるけど、やっぱり外の世界を知らないとストレスが溜まって仕方ない。そこである解消法を発見したんだ」(ワインを注ごうとするヴィリエにもういらないというジェスチャーをする)

スヘイラ「ジーナ様の質問に答えるニャ!!」ダンッハッ(机を叩く)

ジェイソン「うちの顧客の中にはもちろん、返済不能者もいる。僕にとっての利息とは金銭や金品、私財、土地だけにはあらず、資産価値は低くても負債者である所有者にとって金銭での代替えが効かないもの・・例えば、家族や恋人の命、それに形見や信仰心、そして信条なんかがその対象に入る。それを負債者自らに奪わせるんだ。愛する者を殺め、破戒させ、また正義心の強い者に窃盗や人殺し、アンモラルなパラフィリアの強要など重犯罪を強制する。それになんの意味があるのかって顔してるね?いいかい、本来利息の定義とは、金融機関に金銭を借りていることに対しての対価であって、負債者はその報いを借り主である僕にする必要があるんだ。つまり僕にとってこの対価とは、返済額に等しい負債者の心理的苦痛も含まれるってことさ」

ジーナ「尊い存在や信条のない者に対しては?」

ジェイソン「肉体的苦痛により返済の意味を知らしめる。信用供与とは、他人を信用して自己の財産を一時的に利用させることであり、僕にとって返済能力のない者は単純に裏切り者として認識される。実に悲しい話だよ。だから僕を知っている者は世界中でもごくわずかしかいない。交渉は基本的にはこのヴィリエが行っているからね。もちろん債権回収の催促や、負債者が返済不能と判断された場合の「刑の執行」も同様だ。そういった不能者が僕に「謁見」できるケースは、刑罰の執行が行われる時だけだ。そして彼らは外の世界に二度と戻ることはない・・・これが何を意味しているか分かるよね?」(ワインを飲みながらグラス越しに見せる姦邪の眼こそ、この男の本性なのであろう)

スヘイラ「貴様!!カーン様に拷問を!!」ダンッ!!(飛びかかろうとする彼女の肩をすかさず抑える)

ちら・・(ジェイソンの背後に控えるヴィリエは明らかにこちらから目を伏せるように俯いている)

ジェイソン「本当に大した男だったよ。何を仕掛けようが頑なに口を閉ざし、すきあらば自害を試みようとするんだからね。君たちの結束力の強さを思い知らされたよ」

ジーナ「答えなさい。何をしたのです?」

ジェイソン「僕も狂おしい思いに悩まされたよ・・このままじゃ彼の人格が崩壊してしまう。そうなれば質問どころじゃなくなるからね。だから大人しく自白剤を使うことにしたんだ。どうせ放って置いたって彼は廃人になってしまうのだからね」

スヘイラ「このっ・・!!」グンッ!!(視線は家主に向けたまま力強く再び彼女を制する)

ジーナ「それで、お望みの答えは得ることができましたか?」

ジェイソン「黒の契約」

ジーナ「・・・・・・・・・・・」

ジェイソン「オクサーヌ・ヴァレノフが大陸の祖なるものより白の契約を受けし者なら、君はその真逆・・・邪龍の・・」


ガタガタガタガタガタガタ・・
(テーブルが小刻みに揺れ動く)


ジェイソン「・・・・・・・・・・・・・」ガタガタガタガタ(それを黙って静観している)

ジーナ「その者の名は宿命の戦い。その者の名は避けられぬ死。不要にその名を口にすれば、いくら貴方でも命はありませんよ」ガタガタガタガタガタガタ!(視界の中央に薄っすらと黒き龍の顔が浮かび上がる)

ジェイソン「僕らの知らない遥か古にて、黒の契約を受けた君は永遠の若さを手に入れた。それが本当なら、災厄以前から君が王宮に出入りしていたしても何の不思議もない。いや、君はもっと前からデーモンと出会っていた。彼が義賊として活躍していた若き頃から、君たちは知り合いだったんだ」ガタガタガタガタガタガタ!!(あまりの振動に空になったワイングラスが倒れる)

ジーナ「それはあなたの憶測に過ぎません」ガタガタガタガタガタガタ!!(揺れが激しくなっていくと同時に視界の中央に浮かび上がっている黒龍の邪顔もまたゆっくりとその濃度を増していく)

ジェイソン「ああ、そうだ。さすがのカーン君も、君とデーモン・ロザリーが何を企んでいたのかは知らなかった。本題に入ろう。今回君をここへ呼んだのは、デーモンの訃報を知らせるのと同時に、なぜあの男が大人しく神殿で逝くことができたのか、その真相を君に聞くためだ。というわけで今度はこっちの質問。君とデーモンは何を企んでいたんだ?」ガタガタガタガタガタガタ!!(振動の範囲が室内にも広がり、慌てて背後のヴィリエが態勢を整えるのに必死になっている)

ジーナ「それもあなたの妄想です」ガタガタガタガタガタガタ!!ガシャン!!(食器を乗せたワゴンが壁に激突する)

ジェイソン「嘘だ!デーモンはその大望を息子に受け継がせたんだ!!君の血と共にな!!」ガタガタガタガタガタガタ!!ゴトン!!(壁に掛けてあるガウシカの首の剥製が落下する)

ジーナ「そこに私のメリットはありません」ガタガタガタガタガタガタ!!(激しく揺れる中、必死に椅子にしがみつきながら話を聞こうとしているスヘイラ)

ジェイソン「答えろ!!君とデーモン・・・・そうか!!君があの男に身を委ねたのは、その瞳に宿る意志が・・・っ!!」ガシャーーーーーーン!!(より激しい縦揺れが言葉を遮る)

ジーナ「もう一度言います。その名を口にすればここであなたの存在を消します」ガタガタガタガタガタガタ!!(視界の中央で半透明に浮かび上がった黒龍の顔の向こう側では、その言葉を聞いたヴィリエがよろめきながらジェイソンの方に向かっていく)

ジェイソン「歌劇事件の後、君がなぜ東側に逃げたか・・それは老いた独り身の狂王もまた、君の虜であったから・・だから賢い君は、ロザリー親子の執拗なコンタクト・・その熱い恋慕の情から逃れる為、東側に隠遁・・いや、革命を餌にひと稼ぎすることにした・・・そして君の思惑通りデーモンは死去し、アーロンが盟主となった。それを見透かしたかのように君は再び西側に戻ってきた。例え、僕が呼び寄せなくともね。君たち・・君と君の主はアーロン・ロザリーに何を期待しているんだ?」ガタガタガタガタガタガタ!!(激しく揺れる椅子に微塵も動揺せず腰を深く下ろし、振動を制御しながらこちらを見つめている)

ジーナ「すべてはあなたの妄想によるもの。それに答えることなどできません」ガタガタガタガタガタガタ!!(ジェイソンを守るようにヴィリエが寄り添ってくる)

ジェイソン「なら質問を変えよう。僕の邪推はどこまで当たってる?」ガタガタガタガタガタガタ!!(まるで地震のようにテーブルが揺れる中、してやったりの爽快な笑みを浮かべながらこちらを興味津々に見つめてくる)

ジーナ「空想するのは悪いことではありませんが、不用意に人を詮索することは余計な疑念を抱かせる要因となり、自分自身もまたその強い猜疑心により苦しむことになるでしょう。仮にも私達は互いに貴重なビジネスパートナーです。それをくれぐれもお忘れのないよう」スッ・・(フードを被り直す仕草を見せると、瞬時に黒龍の顔も消え失せ、室内の揺れも次第におさまっていく)

ジェイソン「今度は脅迫じゃなくて殺す気かい?」カタカタカタ・・(揺れが静まる中、目を爛々と輝かせながらこちらを食い入るように見つめてくる)

ジーナ「あなたはペシミストのようですね。そして心のどこかで死を望んでいる」カタカタ・・

ジェイソン「デストルドー。試してみるか?」グッ(襟を下に引っ張り首を掻っ切れと言わんばかりに白い肌を曝け出してみせる)

ジーナ「あなたはウー家に生まれたことを後悔している。そしてデーモン・ロザリーを我が子のように見做していた父上にも深い恨みを抱いている。あなたの心の葛藤が、やがて不用意な自己批判に変わり、ペシミズムを招き、正常な発達を阻害している。自愛なさい。あなたを救えるのは、あなた自身の努力だけによるものです」

ジェイソン「・・・・あのデーモン・ロザリーがなぜ君を欲したのか。その答えが今はっきりと理解できた。シスタージーナ・ジラント。君のその妖艶なマゼンダの瞳を見ていると、不思議と死に駆り立てられる。いや・・無秩序の混沌というべきか・・・」

スヘイラ「・・・・・・・・・・」ハラハラ(どぎまぎしながらジェイソンと我が主の顔をテニスを見るように交互に窺っている)

ジーナ「雑談はここまでに。ビジネスの話に移りましょう」おっけぇ~(と軽い返事をするジェイソン。左端に映るスヘイラはホッとしながらまたお葡萄を勝手にむしって食べちゃう。ヴィリエは何事もなかったかのように室内に散乱している様々なものを淡々と片付けていく)


To Be Continued





★次回ストーリーモードは4/18(木)0時更新予定です★