仲間の降伏を目の当たりにしたイライザは黒焦げになった遺体の間を縫いながら、這いつくばって仲間のもとに近寄っていく。


「やめろ・・惑わされるな・・!!」


「今はっきりと分かった。俺たちは騙されていたんだと」


副将は、はっきりそう告げると手にしていた覇弓を引く。


「誰か!!あいつらを止めろ!!」


イライザの煽動を受け、我に返った別のナイトが慌てて詰め寄ると、副将は躊躇なく向かってきた橙黄色の装束を纏った同志の胸を矢で射止める。


「ロロ!!貴様、裏切る気かぁああああああ!!!!」


高貴な印象を放つ青銀の装束を身に纏う「ロロ」と呼ばれたその黒人騎士は、目の前で倒れ逝く同志を見届けながらもその存在は顧みずにその心中を語る。


「仕えるべき本当の主を見つけたまで。怨むなら・・・ギルドを憎め」


「エトを・・エトをも裏切るのかぁあああああああ!!!!」


イライザは血が滴る両手にそれぞれ三本のナイフを突き出して威嚇する。


「今思えば、奴の死が答えだったのかもしれない・・。報復をしたければいつでも来るがいい。だが、そんなこと彼女は望んじゃあいない」


そう告げると青銀のナイトは部下を引き連れて振り返り、私達のもとに歩み寄ってきた。


「行くなぁああああああ!!ロローーーーーーーーー!!!!」


イライザの悲痛の叫びも虚しく、手にしていた覇弓を放り投げ、決別の意を示す青銀のギルドナイト。


「殺してやる・・・・お前ら全員・・・・・・・・鏖にしてやる!!!!」


イライザは跛行状態のまま、行く手を阻むように連なる仲間の躯を踏みつけながら頂上エリアを去っていった。


私が黙ってそれを見届けていると、目の前に現れた青銀のナイトは頭に被っていた羽根付き帽子を脱ぎながら部下達と共に改めて片膝をつき、自己紹介をしてきた。


「ルドルフ・ダラーハイド。以後はロロとお呼びください。オクサーヌ・ヴァレノフ」


どうしたものか。


それがあのときの素直な感想。


だってあんな「しっかりした大人」に忠誠を誓われる「子供の演じ方」なんて教わっていなかったもの。


だからひとまず彼らを「そっちのけ」に、まずは私を助けに来てくれた白い龍の友達の「大きい足」にお礼のハグをした。


「ありがとう・・・」


あの時、彼の「ちょっとでかめで固めな足」の鱗から感じた、あたたかい生命のぬくもりは、今でもあの頃と同じ「ちょっとちいちゃめなこの体」に残っている。


「こんなにすぐ逢えると思っていなかった・・どうして来てくれたの?」


私が込み上げてくる歓喜の涙を堪えながら問うと祖龍は


「やがて汝の義憤が晴れし時、聖戦は訪れん。それまでに同志を集めるのだ。白の盟友、オクサーヌ・ヴァレノフよ」


彼はその神々しい威厳に満ちた翼を羽ばたかせると私を優しく振りほどき、その大きな翼膜より再び綺羅星の様な粉塵を振りまきながら天空へと帰っていってしまった。


顔を見上げ、彼を見送る私の顔に、天空より眩い煌めきのシャワーが降り注いでくる・・


そしてこの瞬間、初めて気づく。


私が生まれた時、白い羽衣を「プレゼント」してくれたのは、彼であったのだと・・


私は生まれながらにして、彼に護られていたのだ。


今となっては母の形見となってしまったドレスの襟をぎゅっと握りしめる。


きっとまた逢える・・


それがいつの日になるか、あのときは「ほんとうに」小さかった私には想像も出来なかったが、彼の言うように宿怨が清々すく晴れた時、また彼と一緒にひと狩りできるのだという確信は抱くことができた。


しかし、その結果次第では二度と彼に逢うことは許されぬかもしれない。


確かなのは、これから私を待ち受ける運命とは、彼が私に与えた「白の試練」なのだということ・・


その崇高なクエストを胸に、遥か灰雲の彼方に消えていく彼をしっかりと見届けた私は、希望と共に後ろを振り返る。


そこには私と共に苦難の道を歩むことを選んだ同志たちがいた。


「さぁ、いきましょう」


私は穢してしまった白の大剣を地面に突き刺し、新たな白の盟友と共に古塔を後にした・・




これが古塔のラグナロクの真相。


その後、イライザがどうなったかはご想像にお任せするわ。


あ、それとこの時、私が置いていった大剣を後に訪れたギルドの諜報員(現在でいう中央捜査局の前身組織に属していた人ね)が拾って、王立武器工匠に持ち帰り、それをヒントにミラアンセスブレイドが設計されることになったらしいんだけど、もちろんそれは黒歴史に刻まれることになり、公にされることはなかったわ。こうしてメサイアの妖精と祖龍は共に伝説になったの。







Recollection No.2_08







白の同盟結成


フォンロン古塔のラグナロクを受け、ハンターズギルドが拠点を置く各地に所属するギルドナイツが壊滅したことにより、致命的な打撃を受けたギルドは、攻めの姿勢から一変、守りの体制へとシフトチェンジする。


もちろんそれは私が古塔から去り、本当の行方不明になったことも大きかった。


つまり私の身柄捕獲は保留になったってこと(だってナイトが全滅したんだから)。


煩わしい執拗な追跡者の目も気にすることなく、私達は旧大陸へ渡り、ヒンメルン山脈の奥地へと身を隠した。


『空へ限りなく近い山』として有名なヒンメルン山脈を選んだのにはもちろん理由があった。


ヒンメルン山脈は非常に標高が高く、険しい山道しか持たない為、交通路として殆ど利用されていないことからひと目を避けることができたのが一番の理由。


山脈を挟んで西側は温暖、東側は寒冷地域となっていたことから、多くの植物、生物が棲息し、それに伴い資源がとても豊富であったことも大きかった。


また、下山すれば東西シュレイドのどちらへも簡単に入れることが出来た(当時のシュレイド地方は大いなる災厄の後で、王国が東西に分裂したこともあり治安が悪く、人混み紛れて情報収集を図るには最適であった)。


そしてこの頃のシュレイドがドンドルマと険悪な関係であった為、都市のハンターをはじめ、ギルド関係者の入植を受けていなかったことから、私達はそこで人材登用をすることもできた(といっても、さすがに私じゃ目立っちゃうから、その仕事はほとんどロロに任せっきりだったわ)。


こうした天然の地と人の利を受け、私達はヒンメルン山脈に神殿を建築する(といっても人が暮らせるほどの質素なものだったけど、私はとても気に入ってたわ。今流行りの「DIYハンター」も私が先駆けなのよ♪)。


私達はここに白の同盟を結成し、ハンターズギルドに代わるべくモンスターハンターの支部を目指すことにした。


力づくでギルドを壊滅するのは簡単。


けどそれじゃあ天国の両親は喜ばないと思った。


だから私達が世界中のハンターの見本となり、新たなギルドを発足することで、ハンターズギルドと「正当な」勝負を挑みたかった。


また彼に逢える日を心待ちに・・



私は同志諸君の師範として持てる限りの狩猟技術、知識、得物の使い方を伝授していった。


私はもっとたくさんの人を「門下生」のように募集したいと言ったが、ロロに止められた。


ロロ、曰く


「ハンターたる者、必ずしも高徳ではない」


と、私によく諫言してくれた。また私もそれが嬉しかった。きっと「おじさん」のロロに、父親を重ねてみていたのだと思う。


ロロは私の参謀として、そしてよき人生のアドバイザーとして、「小娘一直線」のティーンであった私を本当によく支えてくれた。


私はそのお返しに、ロロには特別な「弓術」を教えてあげた。


ロロは同盟内で一番の弓使いになった。


ロロは時折、下山しては街に出て息を抜いていたようだ(私が寝た頃、「大人組」のメンバーでコソコソと神殿を抜け出しているのを私が見逃すわけがないのだが、私はロロに「早く」いい人を見つけてもらい、結婚してもらいたかったので、敢えてそれに気づかないフリをしていた。きっとそれも、ロロの奥さんをお母さんに見立てたかったのであろう)。


ある日、「大人組」が、ひしょひしょ話をしているのを「柱の陰から」目撃した。


私は白の契約を受けたおかげで五感が発達しているので、なんとなく遠くの声も耳にすることができたので、それとなくその会話を盗み聞きすると、なんでもロロに子供が出来たというのだ。だけどロロは自分の子供を身籠った女の人と結婚する気はないという。私はその場でロロを太刀と大剣で八つ裂きにしてやろうかと思ったが、きっとロロなりに考えがあるのだろうと思い、剣を収める代わりに一週間無視することで頭を冷やすことにしてやった。


徐々に神殿で暮らす同志の数も増えていき、「増築」すると共に組織内も賑やかになっていった(私はロロに恋人を山に連れてくるよう再三に渡って命じたが、その都度、頑なに断られた。だからその都度、私も向こうが言うことを尽く無視してやった)。


ヒンメルンでの暮らしはアクラの次に幸せであった。


しかしここでもその未来は剥奪されることになる。


デーモン・ロザリー


この男さえ、ヒンメルンに来なければ・・


To Be Continued







★次回ストーリーモードは12/17(月)0時更新予定です★