「川村!正気を取り戻せ!!」
「わ、わからない・・・私は一体誰なんだ・・!?」
ハンター諸君、いかがお過ごしかな。
私はユクモで民俗学、超常・心霊現象、また、超科学を研究しているしがない研究家だ。
と、今日も村から少し離れた研究所にて秋晴れが見事な空の下、雨音が煎れてくれた「ほうじ茶」を味わっているとそのありふれた平穏を乱すべく来客が突如として現れたのであった。
ニャーク「博士、水没林に来て欲しい。カーブーがおかしくなった」
彼は私が実の弟の様に可愛がっている川村(カーブー)という男のオトモでニャーク五号という。
無論、この「あたモン」の読者ならお馴染みの、私が開発した世界初のアンドロイドアイルーであることは言うまでもなかろう・・。
ニャーク「博士、頼む。早く来てくれ」
麻生「お前ともあろう完全体のアンドロイドが何をそんなに慌てている?
それに、川村が「おかしい」のは今に始まったことではないではないか」
ニャーク「博士。カーブーはみんなが思っている以上に、頭がおかしいんだ」
麻生「・・やれやれ。雨音、少し出かけてくる」
雨音「はい。博士。行ってらっしゃいませ・・」
と、この時の私は「どうせいつもの人騒がせな茶番であろう・・」とこれから起こる奇怪な事件を疑う余地もなかった・・。
~ユクモ地方・水没林
麻生「ニャーク、いい加減に詳細を話せ」
私は水没林の凄まじい湿気のせいか、少し苛々しながらニャークに事情を聴く。
ニャーク「博士。仮にだ。もしも仮に我々が知っているいつものこのユクモで、見慣れない・・いや・・UMAとも呼ぶべきモンスターの死骸が存在するとしたら・・博士は研究家としての血は騒ぐか?」
麻生「なんだと・・!?」
そのニャークの「仮説」はそれまで正直「かったるい」と思っていた私の学者としての揺るぎない探究心を一気に吸い寄せた。
超常現象や生物学に少しでも興味のある者ならご存知であろう。
UMA(Unidentified Mysterious Animal)=未確認動物。
人間というのは根拠や理由が分からないものに恐怖し、そして惹かれてやまない。
この時の私もまさにそうであった・・。
麻生「ニャーク!UMAを川村が発見したというのだな!?」
私は興奮のあまり、水没林の「正直汚らしい」足元のぬかるみを忘れ、ニャークのマントを思いっきりひっぱる。その行為により、若干であるがアンドロイドであるはずのニャークの顔が少し「怒って」見えたのは気のせいか・・。
ニャーク「博士。その真実を見極めるのがあなたの仕事であり天命だ」
麻生「天命か・・。そう言われては断る訳にはいくまい・・」
幼少時より「不思議な」ものや現象に興味を持ち、その不思議が持つ「危うさ」故に幾度となく危険な目に遭遇してきたのは言うまでもない。果たして、この水没林にどのような「不思議」が私を待ち受けているのだろうか・・。私はいつもより無口なニャークと共に水浸しの水没林を迫り来る興味を胸に歩いていく・・。
麻生「UMAらしき物体がいるというのは分かった。
だが川村(カーブー)が「おかしくなった」というのが解せない」
ニャーク「恐怖・・のあまり・・もしくは、興奮しすぎて・・かもしれないボッチ」
麻生「・・・・・・」
その時、なぜニャークが語尾にロボット特有の「ボッチ」を付けて喋ったのかは謎のままであったが、聞けば川村(カーブー)は未確認動物を発見した興奮、そしてその得体のしれない恐怖から頭がおかしくなってしまったそうだ。ここだけの話、この時の私は川村(カーブー)の容態よりもUMAに心踊っていたのは事実だ・・。
ニャーク「着いたぞ・・あれだ!博士!!」
麻生「な、なんだ!!??」
それはそこに存在した。当たり前の様に・・。
まるで「自分も水没林に生息するモンスターですよ・・?」と言わんばかりに・・。
ニャーク「なんだか分かるか?博士」
麻生「グロブスターか・・!?」
グロブスターとは海岸に漂着する得たいのしれない異臭を放つ死骸のことである。大抵は脂の様な「肉の塊」を指す。UMAファンならば「ブロブ」という名でも通じるであろう。
麻生「ニャーク、シャッターモードだ・・!」
ニャーク「了解、博士。ニャーク・シャッターモードへアイズチェンジ」
ウィーーーーーン
カシャーーーーン、カシャーーーーーーーーン
麻生「別の角度からも撮るんだ」
ニャーク「了解。ニャーク・シャッターモード、別アングルもシャッターフラッシュ」
カシャーーーン、カシャーーーーン
ニャーク「博士、これは魚の新種か?」
横からその魚系UMA(仮)を見るとよく分かる。写真上の左部が頭、そして二枚の立派な背びれ、手前には巨大な胸びれと腹びれも確認出来る・・。果たしてこの生物は一体何なのか・・。
私の学者としての血が知らずのうちに猛ってくるのを感じる。
ニャーク「どうする博士。解剖してみるか?」
麻生「そうだな・・。しかし本格的な解剖は研究室で行いたい。もしも「これ」の存在がギルドに知れてみろ。奴らは国家機密を隠蔽する情報局員や連邦捜査局を動員してこの事を「なかったこと」にするに違いない」
ニャーク「このUMAを持ち帰り撤収・・するのか?」
麻生「奴らの得意技だ。そうやってあの連中は表向きの歴史を創りあげてきたんだ」
ニャーク「じゃあ急いで研究室に運ぼう」
麻生「しかし二人ではな・・・ところで川村はどうした?ここにいるのではないのか?」
ニャーク「そういえば・・・」
「お母さ~ん!!」
麻生「なんだ・・?」
ニャーク「あそこだ!博士!」
「お~~い!!お母さぁーーーーん!!」
麻生「・・・・・奴は何を言っているんだ?」
ニャーク「言ったろ?おかしくなった・・と」
カーブー「うわあああああああ!!」
麻生「なんだというのだ・・今度は」
「分からない・・!私は一体・・誰なんだ!!」
麻生「悪ふざけなら後にしろ川村。今はそんなお前の「いつものおふざけ」に付き合っている場合ではないんだ」
ニャーク「そうだ。カーブー。みんなに怒られる前にやめたほうがいい」
カーブー「分からないんです!!旦那!!」
川村(カーブー)の顔は至って真剣だった(マスクを被っているせいかそういう形相に見えたのかもしれない)。ニャークの言うとおり川村(カーブー)は本当に頭がおかしくなってしまったのか・・。
カーブー「ふわああああああ!!奴が来る!!奴が来て、私をぶつんです!!」
麻生「落ち着かんか!川村!!」
カーブー「ぎゃあああああああ!!奴が来る!!奴が来る!!私を思いっきりぶつんです!!」
ニャーク「どうだ?博士。これは「マズイ」だろ?」
麻生「そうだな・・。これはマズイな。そしてこのUMAを置いておく事もマズイ状況だ」
カーブー「うげえええええええええ!!」
ゲロゲロゲロゲロ・・・
麻生「なんだんだ・・!?」
ニャーク「記憶喪失かもしれない」
麻生「なぜだ?」
ニャーク「カーブーの言う「奴」と言うのがキーマンだな」
麻生「・・・・」
私はかつてこれほど「不思議かつどこか違和感のある体験」をしたことはない。
川村(カーブー)は本当に記憶喪失になってしまったのか・・?
そしてこの魚系UMA(仮)は一体・・!?
「だから言ったろ!!そいつはアイツらの仕業だぜ!!」
麻生「!?」
バラン「カーブーはアブダクションされたんだよ。奴らにな・・!!」
麻生「アブダクションとはUFOに拉致をされ情報操作の手術などを施されるあれか?」
バラン「そうだ。その「あれ」だ・・」
麻生「バラン、お前がUFOを見たという話は村で聞いた。だがこの一連の件とどう関係してくるのかもっと詳しく聞かせて欲しい」
バラン「ふん・・これだから学者さんはな。なんでも合理的に考えないと理解した気になれないってか?」
麻生「学者とはそういう生き物だ。そしてその真実を民衆に分かりやすく伝える義務がある」
バラン「フッ・・。あんた、いい顔してるな。いいだろう!話してやろう!
俺の描く陰謀論を今こそ世に公表しよう!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
ザーーーーーーーーーー
果たしてバランの唱える「陰謀論」とは一体何なのか・・。
確かにブロブの存在も異性人やUFOの仕業だという連中もいる・・。
まさか・・この生物がそうだというのだろうか・・?
そして水没林に激しい雨が降ってきた・・。雨は霧となり辺りを覆い尽くす・・。
そう・・・。まるで、この事件を隠蔽するかの様に・・・!
カーブー「ううううう・・・・!分からない・・・!!
お母さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
それは異常な光景だった。
降り続ける激しい雨の中、謎の異性物の死骸と記憶を失った一人のハンター・・。
だが、私はこの直面した現実から目を背くことなく、立ち向かった!
そう!全ては真実を求めるが故!!
麻生「さぁ!バラン!!お前の仮説を聞かせろ!!」
バラン「いいだろう!!それは宇宙人3歳という・・・」
ピカッ
ドシャアアアアアアアアアアン
「ひええええええええええ!!」
麻生「なんだ!今度は!?」
ニャーク「あのUMAの中から声がしたぞ!!」
麻生「何者だ!!」
ピカッ
バラン「お嬢さん!!」
麻生「UBU!お前、あの中にいたのか!?」
UBU「雷恐いでしょ帰ろう!!」
麻生「待て!!」
私は逃げようとするUBUの後ろ襟首を思いっきり引っ張った。
UBUのお気に入りの「ナデシコ装備」は着物だ。襟を掴むのは至って簡単な話だった。
UBU「うげええええええ痛い痛い!!痛いって!!」
麻生「さぁ!話せ!なぜあのUMAの中にいたんだ!!」
後ろ襟を引っ張ることで前襟がUBUの喉を締めつける感覚が私にも伝わる。
UBU「痛い~ちぬぅ~!!」
ニャーク「博士!それ以上は駄目だ!!」
麻生「ハッ・・・す、すまない!UBU!」
私は真実を欲しがるあまり熱くなり過ぎた様だ・・。
私は引っ張りすぎて「たるたる」になってしまったUBUのナデシコ装備の襟を離した。
そう・・これも水没林の異常なまでの湿度のせいかもしれない。
気がつくと辺りの雨は止み、むしろ静寂さえ覚えた。
UBU「ゴホゴホッあ~・・ちぬかと思った・・
あ~!もう!!襟が「たるたる」になっちゃったじゃないのさ!!」
麻生「す、すまない。そ、それよりUBU!どうしてあのUMAの中にいたのか教えろ!!」
UBU「ゆーま?なんえすか?それ?」
ニャーク「あれの事だ」
UBU「ああ、あれねぇ」
麻生「やはり何か知っているんだな!!」
UBU「そりゃ知ってるよぉだって、あたちがやったんだもの」
麻生「なに!?お前が!?」
UBU「博士~、あれは「ゆーま」なんかじゃないよ」
麻生「え?」
UBU「よく見てごらんよ。触ればよく分かるよ」
麻生「・・・・・・・」さわさわ
UBU「ねぇあれですよぉ~あれ!ドボルの尾っぽの取れたあれですよぉ~」
麻生「ガーーーーーーーン」
ニャーク「だがUBU、なんでこんな形をしてるんだ?」
UBU「おんなじ場所でドボルの尾っぽを落とすのに成功したんだよ
微妙に落ちる位置が異なったから、UMAっぽく見えるのかもね。
これも狩りが起こす「奇跡」のひとつだよにゃははははははは!!」
麻生「・・・・・・・」
ニャーク「本当だ。ドボルのあれがうまいこと重なっていたのか」
カーブー「うわあああああ!!奴が出た!!奴が私をまた「ぶちに」来たんだぁ!!」
UBU「なんだ!お前!人の顔を見るや否や、人聞き悪い」
麻生「う、UBU!このカーブーの記憶喪失はどう説明するんだ!?」
UBU「記憶喪失?」
ニャーク「そうだ。カーブーはみんなが思っている以上に、状況がよくない」
UBU「あああれでか!」
麻生「何があったのだ!?ま、まさかUFOに拉致をされ・・」
UBU「あたちが尻尾を落とすので夢中になって大剣で「カチ上げ」ちゃったんだよぉ
普段、カチ上げ斬りはやんないんだけどね。
尻尾になかなか当たらなくてイライラしてたから、なりふり構わずブン回してたらカーブーをカチ上げちゃったんだね。それできっと打ちどころが悪かったんだよぷぷぷぷ」
ニャーク「なるほど。それで尾っぽの切り落としに成功し、満足したUBUは「雨宿り」にその尾の中に身を潜めていたら眠くなって寝てしまった・・・そんなところだろう?」
UBU「さっすがニャーク君!よっ最新鋭アンドロイド!!」
麻生「・・・・・・・・・・・・帰ろう」とぼとぼ
ニャーク「ん?そういえばバランの姿が見えないな。
そうか・・・きっと真相が全くバランの見解と違うから分が悪くなって帰ったんだな。
やれやれ・・全くお騒がせな轟竜だな」
UBU「博士!新しいナデシコ装備、作っておくれよ」
麻生「ああ・・・何着でも作ってやるさ・・」とぼとぼ
UBU「あえ・・どうしたんだろね、博士。
というーか、なんで博士とニャーク君がここにいるのさ?」
ニャーク「フフフフ・・・。それは秘密だ」テテテテテテテ・・・・
UBU「なんなんでしょーねぇ」
「こ、恐い!!ナデシコ装備の変な女が恐い!!」
UBU「変な、は余計だろう!!」パカーーーン
カーブー「いてぇ!!・・・ハッ俺は一体!?UBUさん!ニャーク!」
UBU「戻った」
ニャーク「王道路線だな」
カーブー「あれ、これ何すか!?あははははは!!なんかUMAみたいっすね!!」
UBU「みんなで記念撮影しようよ」
カーブー「ニャーク!シャッターモードだ!!」
ワイワイガヤガヤ・・
麻生「・・・・・・・・・・・」とぼとぼ
←エンディングテーマ♪
この世の中には理りでは割り切れない現実がある。
だが必ず歴史にはパラダイムシフトが起こりうるのも事実である。
私の名前は麻生。ユクモの民俗学者だ。
決して真実から逃げることなく、またそれを覆い隠そうとする歴史の支配者にも屈しない事を私は誓おう・・。
そう、すべてはユクモの明るい未来の為・・!!
UBU「はい、チ~ズ」
パシャ
おしまい
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