ふたりはドクトル・イーゴリの
思い出にふけるのでした
「彼にはじめて会ったのは、
ダンスホール・パイクだったわね。」
「ぼくらが歌ってたあのホールだったかな。
映画館じゃなかった?」
「かれったらわたしの歌に惚れたって、
クローバの花束をくれたのよ。」
「花屋なんてなかったからね、あの
核コンビナート都市には。」
「不思議な街だったわ。」
「秘密閉鎖都市、地図にはない町だった。」
「かれとわたし、すぐさま恋に落ちちゃって。
かれっておかしなひとだったわ、頭の中はいつも
研究のことで一杯のくせ、わたしの歌声を聴かないと
眠れないんだ、なんて。」
「デートはいつもローチ・アトミカだったね。
どうしていつも君たちは水着になったんだい?」
「忘れちゃった、きっと海が恋しかったのね。
かれよく言ってたわ、塩水スープがぼくらの故郷だって。」
「いい男だった、寡黙で。」
「そうね私にも無口で、自分の研究は秘密にしてたわ。」
「かれはなにを研究してたのかな?」
つづく
