朝ごはんは、通勤通学の途中で食べる。

が、共働きの家庭がほとんどのベトナムの生活スタイルだ。

市場も路上も食堂も朝から賑わっている。

家にいるお年寄りも近くの店から出前をとったり、

屋台がリズミカルに金属のカケラをカンカン叩いて存在を知らせながら御用聞きにきたりする。

だいたいどこの住宅街にも近くに小さな青空市場があり、

市場のプラスチックの椅子に腰をおろし何か食べている人も多い。

 

炙った肉やなますをごはんにのっけた皿飯を食べる人、

バイクに乗ったままバインミー(ベトナムサンドイッチ)や

おこわ(甘いのもしょっぱいのもある)を買う人、

天秤に積み上げた何種類もの茹でたサツマイモやキャッサバなどの芋類を買う人...

 

いろいろだけれど、たぶん一番多いのは麺をすする人。

ベトナム料理の麺の種類は本当に多い。

フォーやビーフンをはじめとする米の麺、タピオカ粉の麺、春雨、小麦の麺...

人気の店の前にはずらりとバイクがひしめき合う。

道路沿いはほぼすべてがお店で、よほどの高級店でなければドアはない。

店の活気はそのまま道路に伝わり、通行人たちを吸い込んでいく。

歩道にイスとテーブルを出しているところも多い。

 

 

ドアがないというのは本当に素晴らしくて、

そこに住む人々の心の垣根の低さとリンクしているのだと感じる。

これは店だけに限ったことでなく、住宅でも昼間はドアが開いている家が多かったように思う。

夕方になると、外にイスを出して座ってぼーっとしたり、談笑している老若男女。

私もはじめて訪れたときに、ホテルの前にイスが置いてあって、

そこに座ってその辺にいる人と言葉を交わしたり、

街の鼓動を感じられたことが、旅の中で特に心に残ったことだった。