コマオが夏の夜の蒸し暑さに苛立ちを覚えていた頃、同僚のN井氏からメールが届いた。
- 今年は新居から花火を見るのかい?
あぁそうか、今日はこの町の花火大会か。
コマオはN井氏に事情を説明する。
- 新居の建ち位置からして、花火の向きとは逆に窓があり、たとえそれが解消していても、お隣さんの家が邪魔で見えません。
そう返信しておいた。
するとN井氏から返信が来る。
- 穴場があるんだが、皆で見ようゼ。
コマオは即答した。
- いや、花火は全く興味がありません。
- でも、また来年誘ってください。
コマオは食べかけていた夕食を済ませて、風呂を沸かしながら皿を洗った。
あっという間に一人分の食器を洗うと、沸きたての風呂に入る。
熱い湯で一日の疲れを癒していると、雷鳴によく似た音が聞こえてきた。
あぁ花火大会が始まったんだ。
皆、今ごろ、ベビーカステラだの焼き鳥だのを食べながら、穴場から花火を見てるのだろうな。
そして、コマオも来ればよかったのに、なんて言っちゃってるんだろうな。
コマオは全身を湯船に浸しながら同僚たちのあれこれを想像した。
それから、ちっとも後悔なんかしてないもんと小さな声で言った。
だって皆、よく考えてみろ。
花火は見るから楽しめるもんじゃない。
こうやって湯船に浸かりながら目を閉じる。
外からは大きな花火の音が聞こえてくる。
すると、どうだろう。
瞼の奥に自分なりの花火がたくさん咲くじゃないか。
どれも色とりどり綺麗な花が咲いている。
光を遮った暗闇に咲く、無限の感性。
花火は見るだけじゃない、感じるものだ。
そうやってコマオは入浴を終えた。
まぁ、だからと言って、来年またN井氏が誘って来ようものなら、コマオはたとえ夕食中であっても花火大会に出席するのはやぶさかではない。
やぶさかではないのだ。