どうやらコマオは一つの波を乗り切ったようだ。
次の波は来週訪れる。
コマオは早くも緊張している。
コマオがどんな状況であれ、世間は滞りなく運転している。
今日もコマオは電車に揺られ、研修を終えて再び電車に揺られて帰宅した。
帰りの車内では他人の話が気になって仕方なかった。
決して盗み聞きしていた訳ではないが、彼らの会話がコマオの耳に入ってきた。
おそらく好き同士であろう男女がいた。
男女は共通の友人を話題にして盛り上がっていた。
女の降りる駅が近づく。
男は少し寂しそうだ。
「雨小振りだね。俺も降りようかな」
男は冗談ぽく女に言った。
しかし、それはできない。
男は言う。
「飯食って帰ったら、親に怒られるよな」
どうやら、女は実家暮らしで、両親は厳しいようだ。
「ゴメンね。今度は来週だね」
女は残念そうに謝った。
そして、駅がいよいよ近づくと男に言った。
「飲みすぎたらあかんよ」
そうして、二人はバイバイと言った。
コマオは男の気持ちが痛いほどよく分かる。
実際に一緒に降りる勇気もなければ、告白する情熱もない。
ひたすら地盤を固め、外堀を埋める。
痛いくらいわかるで。
コマオは男に念を送った。
そんなセンチメンタルな状況に遭遇したコマオは、女が降りたその駅で新たな出会いをした。
入れ替わりで乗り込んできたのは何処かの中学の野球部たち。
「好きな言葉は信念です」
彼らは開口一番、某美容外科クリニックのモノマネをした。
あまりに似ていないモノマネにコマオは思わずふいてしまった。
知らない中学生の似てないモノマネにやられるとは一生の不覚。
でも、コマオの笑のツボはまさにそこだ。
人生は十人十色。
たまたま乗り合わせた知らない人たちは各々さまざまな物を背負っているようだ。