コマオは嫁から許しが出たにも関わらず、愛すべきクラブの首位決戦を観戦しなかった。
単に仕事が長引いたと言えばそれまでだが、ここは一つ、嫁とあやこのために仕事を頑張ったと言ってまとめておきたい。
でも来週の水曜日には試合に行けたらいいな。
話は変わってあやこである。
コマオと嫁は朝の6時に産院に到着し、19時半にやっとあやこを生んだ。
嫁はたいした人だと思う。
ただ、あんなに痛みと向き合う嫁をみたのは初めてで、コマオは途中一度、最寄りのコンビニに逃げ込んだ。
産院の個室にはコマオしか男がいなかった。
嫁も義母も看護師も、あやこも女性。
義母や看護師は嫁の腹部や腰部を的確にさする。
コマオは陣痛の間隔を腕時計で計るくらいしかできなかった。
まさにあの場は女性だけの領域で、男は居るだけで邪魔だった。
19時前、嫁の陣痛もいよいよ最大に達しようとしていた。
ここで医師はコマオにもしもの事を伝える。
どうやらあやこは羊水の中で排便していたらしく、誤嚥性肺炎の危険があるとのこと。
場合によっては死に至ると聞かされた。
コマオと義母はショックを隠せない。
医師の説明まで、まだかなまだかなとニヤニヤしていたが、無言のまま時間が流れた。
さらに医師はあやこの出ようとする力が弱いから吸引するかもと言い残した。
コマオはもう気が気でない。
そして19時半、奥から赤ちゃん泣き声が聞こえてきた。
それは赤ちゃんの泣き声でしかなく、とてもあやこを想像できなかった。
しばらくして、看護師が赤ん坊を抱っこして来た。
まずはパパからとコマオに赤ん坊を託す。
「出てきたん?」
コマオは赤ん坊に尋ねた。
そして、やっと、この赤ん坊があやこだと認識した。
あやこの誤嚥性肺炎の疑いは消えず、とりあえず保育器に入ることになった。
コマオは心配が払拭されぬまま、寝床への帰宅を余儀なくされる。
しかし、今日の嫁の報告はコマオを安心させた。
あやこは保育器から出て泣きに泣いているらしい。
これからが大変だ。