「脈は全く問題ありません。ご健康そのものです」
王妃の手首から手を離しながらウンスは笑顔で告げた。
「他に何か気になるところはありませんか?」
「特にはありませぬ」
「何かあったいつでも言ってくださいね。体のことじゃなくても、不安に思うこととかでも、何でも。王妃様が安寧にお過ごしいただけるよう全力でサポート……じゃなかった、支援しますから」
「はい。またこうして医仙に診ていただけて心強いです」
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
脈診や問診を一通り終えた後、王妃はお茶と茶菓子をウンスに振舞った。
いただきます、と菓子を食べるウンスを見つめながら、王妃は感慨深い思いに浸かった。
「医仙は変わらぬのですね。まるであの頃に戻ったかのようです」
「こちらの世界では私がいなくなってから4年が経つと聞きました。でも私の中ではあの人と離れた時から1年しか経っていないんです。どうしてなのかは私もわからないんですけど」
「なんと、天門というのはまことに不可思議なものなのですね。ですがこうして再び戻って来られたこと嬉しく思います」
「王妃様……」
王妃はウンスの帰還を心の底から待ち望んでいた一人でもあった。
王妃にとってのウンスは命を救ってくれた恩人。
だが、それだけではなかった。
高麗の皇宮に向かう馬車の中、初めて高麗の皇宮に足を踏み入れるというのに湯浴みも着替えもさせてもらえぬ時に化粧を施してくれたこと、天界の知識として王様とのことを教えてくれたこと、抱きしめてくれたこと。
元の姫、王妃という立場の上、身一つで嫁ぎ頼る者もおらず孤独を感じることも少なくない状況の中、時には友人のように、時には姉のように接してくれるウンスは王妃にとってかけがえのない存在になっていた。
「お屋敷での暮らしはいかがですか?」
「今のところは問題なく、不自由なく過ごせてます」
「それはようございました。婚儀の日取りも決まったそうですね」
「はい!」
「婚儀はどのようになさるのですか?」
「チェ家の菩提寺で行うことになりました。婚礼衣装もあの人のお母さまのものを借りることになって」
「まあ、素敵ですね」
幸せそうなウンスの様子に王妃も自然と笑顔になる。
「婚儀がすごく待ち遠しいです!でも婚儀の作法とか仕来りとか覚えないといけないこともありますけど」
「こちらと天界とでは婚儀の作法が違うのですか?」
「天界では婚儀のやり方が何通りかあるんです。仏様やご先祖様に二人の婚姻を誓う形式もあれば、神に誓う形式もあるんですよ。最近多いのは神に誓う形式かな?西域から伝わった婚儀の形式なんですけど、お寺じゃなくて教会という場所で二人が夫婦になることを神に誓って結婚の証である指輪を交換するんです」
「指輪が結婚の証なのですか?」
「私も細かいことはわからないんですけど、指輪って切れ目のない輪っかでしょ?その輪の形が途切れることのない永遠を表していて、お互いの愛が永遠に続くようにっていう願いを込めて指輪を交換するようになったそうなんです。つける場所も決まってて、結婚指輪は左手の薬指につけるんです」
「左手の薬指?それにも何か意味があるのですか?」
「ある国では左手の薬指と心臓は1本の血管で繋がっていると信じられていたそうなんです。心臓に最も近い指に指輪をはめることで、お互いの心と心を繋ぐ、という意味があったそうです。そうして永遠の愛を誓うんです」
「永遠の愛……」
「それから花嫁が着る婚礼衣装にもいろいろ由縁があるんですよ。婚儀の時はウェディングドレスっていう婚礼衣裳を着るんですけど」
「うぇでぃんぐ……どれす?」
「上半身から足を覆うくらい状裾が長い、ゆったりしているスカート……えっとチマ状の衣装なんですけど、あ、口で言うより絵に描いた方がわかりやすいと思います。筆と紙をお借りしても良いですか?」
ウンスは王妃から筆を借りると、腕をめくってその紙にウェディングドレスのイラストを何種類か描いてみせた。
「こんな風にウエスト……お腹の部分から裾にかけて徐々に広がっている形もあるし、こんな風にチマ部分をふんわりさせた形や体の線に沿った細身のものだったり、着る人の体型とか好みでどんなものにするか決めるんですよ。で、色は白!」
「白?」
「ええ、ウェディングドレスの白には理由があるんです。白には清楚とか純潔、純粋という花嫁を象徴する意味があったり、あとはリセットという意味があるんです。リセットっていうのは、新しく始めるって意味で、縁を結んだ二人が夫婦としての新しい生活をこれから始めるっていう意味が込められているらしいんです。あと、もうひとつ、これはあまり大きな声では言えないんですけど……」
ごにょごにょとウンスが王妃に耳打ちすると、まぁ、と王妃が僅かに頬を染めた。
それから、ベールというものがあって、誓いのキスがあって、と天界の婚儀の話で二人は一頻り盛り上った。
「医仙も着たかったのでは?」
「若い頃はちょこっとだけ憧れてた時もありましたけど、今はあの人と一緒になれるだけで嬉しいです。あ、でもお父さんとお母さんに見せてあげたかったかな」
「医仙……。そのウェディングドレスなる天界の婚礼衣装、私からの贈り物とさせてくださいませんか。元はといえば、私のせいで医仙をこの地に留めました。その折の治療のお礼もいまだにしておりまぬゆえ。それに医仙は天界の姉様。この目出度き折、妹からの祝いの品としてぜひ受け取ってほしいのです」
「お気持ちは嬉しいです。けど、どうやって……?」
「皇宮のお針子たちは皆優秀です。天界の婚礼衣装とまったく同じというわけにはいきませぬが、当代で最高の婚礼衣装を仕立てることはできるかと」
「でも、着る機会なんて……。あっ、いいこと思いついた!私の世界では婚儀の後の祝宴の時にお色直しというものがあって、その時に婚礼衣装から別の衣装に着替えるんです。そのお色直しをすればいいんだわ。婚儀はあの人のお母さまの婚礼衣装を借りて、祝宴では天界の花嫁衣装を着る」
我ながらいい考えだわ!とウンスは自画自賛した。
「王妃様、お言葉に甘えてもいいですか?」
「是非に」
↓ぽちっと押していただけると嬉しいです(人´∀`*)♡
***
かな~り間が空きましたが本日より更新再開です!
ヨンとウンスの婚儀に向けて物語が進んでいきます♡
よろしくお願いします(*'ω'*)
