寺から皇宮へ向かう馬車の中。

隣り合わせに座る二人は相も変わらず手は握り合ったまま。

 

あんなに待ち遠しかった婚儀なのに、なんだかあっという間だったわ」

「そうですね」

 

ねえ、とウンスがヨンを見上げると、自分をじっと見つめる男の視線にぶつかった。

 

もしかしてずっと見られていたのだろうか?

 

「あの……、そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」

 

その熱すぎる視線に気恥ずかしくなったウンスは頬を染めて目を伏せた。
長い睫が頬に落とす影、それも美しさに彩りを加え、ヨンは言葉もなくウンスに見入っていた。

 

「まるで夢を見ているようで」
「夢じゃ困るわ」

 

ウンスは両手でヨンの頬を包み込むと、その頬をむにゅりと引っ張った。

 

「いむじゃ、痛いです」

「ほら夢じゃないでしょ?」

「はい」

「私たち夫婦になったのよ」

「はい……」

 

笑みを浮かべたウンスの形の良い唇に引き寄せられるように、ヨンがウンスに顔を近づいてくる。

…………が。

ヨンの唇に触れたのはウンスの柔らかい唇……ではなく人差し指。

 

「だめよ。紅が落ちちゃう。……今は我慢して」

「……」

 

 

 

二人の乗った馬車が皇宮に到着する。

ヨンが先に降り、ヨンの手を借りて馬車を降りるウンス。

 

「足元に気を付けてください」

「ありがとう」


ウンスが着慣れぬ衣装の裾で転ばぬように手を繋いだまま、ウンスの歩調に合わせてゆっくりと皇宮の回廊を歩く。

皇宮に現れた、礼服を纏った大護軍と艶やかな赤紅の婚礼衣装に身を包んだ医仙を宮殿の人々は様々な視線――ほとんどが羨望の眼差しだが――でもって出迎えた。

康安殿に向かう途中、すれ違う女官や内官、禁軍や迂達赤たちは二人を見ては、驚き、絵のような二人の姿にほおっと溜め息を零し、最後には笑みを浮かべ二人に祝福の言葉を贈った。

康安殿に二人が到着すると、中から重臣たちがぞろぞろ出てくる。

それを見たウンスはより一層ヨンに寄り添った。

 

「イムジャ?」

 

怪訝そうにするヨンにウンスは声を潜めて言った。

「ほら、言ったでしょ?貴方は私のものなのよって、アピール。見せつけるの」

 

貴方に縁談でも持って来られたら大変だもの、というウンスにヨンの頬は緩んだ。
俺の妻となった女人はなんと愛らしい人なのだろうか。

重臣たちも二人に気づいたようだが、祝いの言葉を述べる者、軽く会釈する者、一瞥するだけの者など反応は様々だ。
その重臣たちの中に、ウンスも見知った顔を見つけた。

イ・ジェヒョンとイ・セクだ。

 

「チェ・ヨン大護軍、医仙。本日が婚儀であったか」
「はい、先ほど婚礼の儀を無事に終えました」
「それは目出度い。お祝い申し上げる」
「ありがとうござます」

ヨンが答え頭を下げるのに合わせてウンスも頭を下げた。

「王様へ報告にあがりますゆえ、我らはこれにて」
「うむ」

二人の後ろ姿を見届けて、ヨンとウンスは王の執務室へ向かった。
王の執務室の扉の前にいたのは、内官のアン・ドチとチュンソクだった。
二人はヨンとウンスを見ると、満面の笑みを浮かべ祝いの言葉を述べた。

「此度はまことにおめでとうございます」
「ドチさん、チュンソクさん、ありがとう」

ドチがヨンとウンスの訪問を告げるのを待って二人は王の執務室へ足を踏み入れた。


部屋に入ると王様と王妃が二人を出迎えた。

ヨンとウンスが一礼すると、王から「かけよ」という言葉があり、一同が着席する。

 

「王様、王妃様、此度、医仙 ユ・ウンスとの婚儀が相成りましたこと、ご報告申し上げます」

「うむ。実に目出度い。これほど喜ばしいことはないぞ」
「大護軍、医仙、心よりお祝いを」

上座に座る王と王妃も嬉しそうな様子で二人に微笑みかける。

「ご聖恩の限りでございます、王様、王妃様」
「そうかしこまるな」
「医仙、婚礼衣装まこと似合うております」
「ありがとうございます、王妃様」
「今日のチェ・ヨンはこれまでにないほど晴れやかな顔をしておるな、王妃もそう思うであろう」
「まことに」

「王様、王妃様、おやめください」

そういうヨンの顔はやはり穏やかだ。

 

「長い間待ち望んだ女人と永久の誓いを交わしたのだ。致し方あるまい」
「王様」
「許せ。このような時でしか、余は其方を揶揄うことができぬからな。だがチェ・ヨンのそのような顔が見ることができて余は喜ばしい」

 

王はチェ・ヨンに対し、負い目とまではいかないが申し訳ないという思いがずっと心の中にあった。

王である己が無力なばかりに、いつもこの男の辛い役目を負わせてきた。

今の高麗があるのはチェ・ヨンのおかげと言っても過言ではない。
その男が笑っているのだ。

この上なく幸せそうに。


「医仙、いやもうユ夫人とお呼びした方がよろしいかな?」
「なんだか照れちゃうわ……なんでしょうか?王様」
「王妃は其方を信頼しておる。これからも色々相談に乗ってやってほしい」
「お任せください」

ウンスは王妃を見て微笑んだ。

「チェ・ヨン、そして医仙、其方たちは高麗において、なくてはならぬ存在だ。これからもよろしく頼むぞ」

「「はい」」

二人は御前を後にすると、皆に見送られて皇宮を後にした。

 

屋敷に戻る道すがら、馬車の帳を開けてウンスは外の景色を見ていた。

 

ここが、私が生きていく世界なんだわ。

高い建物も便利な道具も何一つない。

私にあるものは……。

 

ウンスは隣を見遣った。

 

「どうかしました?」

 

ウンスの視線に気づいたヨンが問いかけてくる。

 

この人だけ。

この人の隣で泣いて笑ってそうやって共に時を重ねていくのだ。

 

「これからもよろしくね」

「急にどうしたのです?」

「ううん、ただ言いたかったの」

 

そう言うとウンスは再び外の景色に目を向けた。

すると。


「あっ、お嫁さんだー!」
「すっごく綺麗ー!」
 

声のする方向をウンスが見ると、この辺りに住む子供だろうか。

幼い少女たちが目をキラキラと輝かせて、馬車に乗っているウンスを見ている。

 

そんな少女たちにウンスは顔を出して手を振って応えた。

手を振り返す子供たちを、こら、と嗜める母親たちだが、笑顔で手を振るウンスの美しさに、はしゃぐ子供たちの気持ちもわからなくもないと納得した。


近くでそれを見ていた民たちも徐々に注目し始め、「本当に綺麗だねぇ」と花嫁姿のウンスを見た民たちは微笑みながら相槌を打った。

その声はウンスにも届いていて。

 

「なんだか芸能人にでもなった気分だわ」

「げいのう……?」

「ほら、貴方も手振ってみたら」

「俺は結構です」

開け放したままの馬車の窓からは中の二人が見えていて、民の中には大護軍チェ・ヨンの顔を知っている者も当然いる。

おい、あの方は……大護軍じゃないか?と誰かが言い出すと、瞬く間に大護軍と医仙様の婚礼だということが広まり、民たちからの祝いの言葉がさらに大きくなった。
 

進む道にはいつの間にか人だかりができ、歓声と祝福の声が聞こえてくる。
大護軍の婚礼を一目見ようと集まってきているのだろう。

 

大護軍様、万歳!
あんな綺麗な花嫁をもらって幸せものだ
え?大護軍様の婚礼?そりゃあ目出度いこって。
大護軍はあっちの方も強いのかい?
なんて下世話な言葉にどっと笑いが起きる

花嫁さんと幸せにね~!
美男美女でお似合いの夫婦じゃないかい
これからも高麗を守ってください。

 

降り注ぐような祝福の声の中、二人はゆっくりと屋敷に向かって馬を進めた。

 

 

「貴方って、この時代から既に人気者だったのね」

「なんと?」

「なんでもない」

 

 

↓ぽちっと押していただけると嬉しいです(人´∀`*)♡

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

 

***

 

予告通り、つぶやきは削除させていただきました。

コメントのお返事ができなかった方もいて申し訳ありませんが、大事に読ませていただきました。

ありがとうございました。