優しい指先の感覚を頬に感じ、ウンスは目を覚ました。

 

「……ヨ、ン?」
「イムジャ、如何した?」
「何が?」
「涙が……」

「え?」

 

ウンスは言われて初めて自分の頬に流れていた涙に気づいた。

 

「何かあったのか?」


伸びてきた武骨な手はひどく優しげな仕草でウンスの涙を拭い、眦をそっと撫でながらヨンは心配そうにウンスの顔を覗き込んだ。

 

「夢を見たの」
「夢?」

「そう。でも悲しい夢じゃなくて……」

 

春の日差しのような、あたたかい夢だった。

 

黒髪の男の子が木でできた剣を振りかざして笑っている。
男の子の振りかざした剣を易々と受け止めたのは、男の子によく似た面差しの男だった。
背が高く、服の上からでも鍛え抜かれていることがわかる肉体を持つ男は、男の子が一歩だけ下がるような適度な力でその剣を押し返す。
黒曜石の瞳が柔らかく綻ぶ。
まるで尊い宝物を見つめるかのように。

やんちゃ盛りの男の子にねだられて、おもちゃの剣でチャンバラをしている。

やがて何度やっても勝てない男の子はベソをかきはじめ、それを見て男は子供の頭に大きな手を乗せ優しく撫でた。

男は子供に何か言っているようだが、ここからでは何を言っているのかまではわからない。

それから男は未来の象徴たる男の子を抱き上げて、朗らかに笑ったのだった。

そしてこちらに向かって男の子が手を振る。

 

――ははうえ!

 

そこで目が醒めた。

 

 

 

「とっても幸せな夢よ」

 

夢の中で、宝物を見るように綻んでいた瞳は今も優しげな色を浮かべてウンスを見つめている。

 

自分の頬に優しく添えられた掌。

その掌を握り、互いの指を絡め合わせる。

その手は、さっき夢の中で見た男の手にそっくりだ。

 

「陽だまりみたいにあたたかくて、眩しくて、とてもいとおしい夢」

 

あの男の子は未来の象徴だ。
やんちゃで、元気で、可愛らしくて。
幸福をかたちにしたら、きっとああなるに違いないような。
失ってばかりだった男が手に入れるにふさわしい、いとおしい幸福だ。

 

「貴方がいて、私がいる。そして、貴方に似た男の子」

「イムジャ」

「そう遠くない未来に叶う夢。そうでしょ?」

「ええ」

 

ウンスは幸せそうに笑った。

 

男の子と同じ黒曜石の瞳が近づいて、そっと目を閉じる。
優しく唇に柔らかなものが押し当てられた。

ヨンの口付け優しくて温かくて、ウンスはヨンから与えられる口づけの心地よさに陶酔した。

重ねるだけの口づけを繰り返しながら、ウンスはヨンに身体をすり寄せた。

 

昨年はこの人と離れ離れで、一人で寂しくて、寒くて。

 

「今、こうして貴方と一緒に居ることができて幸せだわ」

「俺もです」

 

身を寄せてくるウンスの腰を引き寄せながらウンスの額に口付けた。


「ヨン」

「何です?」

「すき」

「俺もです」


くすぐったそうに、笑いながらウンスはふと気づいた。

 

「あ、年明けたわよね?새해 복 많이 받으세요(セヘ ポン マニ パドゥセヨ)」

「새해 복 많이 받으세요(セヘ ポン マニ パドゥセヨ)」

「今年もよろしくね」

「はい。今年だけではなく、これから一生ですが」

 

ヨンの言葉にウンスは笑って、そうねと相槌を打った。

 

まだ日の出前です。もう少し寝ましょう」

 

ヨンはそう言って、ウンスを胸の中に抱きしめた。

男の胸は硬くて、あたたかかった。
懐に顔を埋めて男の匂いをかぐ。
自分よりも高い体温をしみじみと味わい、うっとりと全身を包むぬくもりに安堵の溜息をつく。

ウンスは満足げに目を閉じてヨンの心音に耳を澄ませた。
とくりとくりと規則正しく刻まれる命の音を聞きながら言いようのない幸福感に包まれる。

 

再び夢の世界に旅立とうとしているウンスの眼裏に、男の子が走っていく。
きゃっきゃと笑って、春の日差しのなかで、きらきらと輝くように笑った。

 

 

Fin

 

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***

 

皆さま、あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

 

韓国では、新年の挨拶は
새해 복 많이 받으세요(セヘ ポン マニ パドゥセヨ)

新年、福をたくさん受け取ってください

と言うそうです。

 

福をたくさんって良いですよね。

福をたくさん受けられる1年になりますようにキラキラキラキラ