縁談のことなんて一言も聞いてないわ!
なんで言ってくれなかったの?と話を聞いた時はそう思った。
あの人をすぐに捕まえて問い詰めたかったけど、今夜泊まる宿を確かめに行っちゃってすぐに話ができなかった。
それから少し時間が経って頭も冷えてきた。
縁談のことなんて普通は言わないわよね。
というより言えないというのが正しいかしら。
私に言ってもどうなるもんじゃないし。
今みたいにモヤモヤするだけだもの。
でもモヤモヤする原因は縁談の話を聞いたからだけではない。
トクマンさんやテオさんの話を聞きながら、ふと思った。
あの人自身のことは知ってるけど、あの人を取り巻く環境のことを私は全然知らないんだなって。
あの人の身内だって知っているのは叔母様くらい。
お父様のこともお母様のことも聞いたことない。
それに家のことも、育ってきた環境も。
高麗で10本の指に入る家柄?高麗屈指の名家?
良いところのお坊ちゃんなのかなとは思ってたけど、そんなすごい家だったの?
まあ、お父様の遺言が歴史に残るくらいだからそりゃそうよね。
もっと歴史の勉強しておけばよかった。
私が知ってることなんてテストに出題されるところくらいだもの。
あの人が高麗を守って戦をして、功績をたくさん残して、歴史に名を残す。
その功績となる大きな戦が近い将来にあるということ。
倭寇や紅巾賊の襲撃。
その戦にあの人が行く。それから王妃様は……。
王妃様の死が原因で王様も、そして高麗は……。
ウンスは暗くなった思考を振り切るように、頭を振った。
私がこの時代に残ったことで、私の知っている歴史のまま時代が進むとも限らない。
タイムパラドックスが起こる可能性だってある。
けど、そんなことはどうでもいいわ。
私は先の歴史より、”今”が大事。
私の周りにいる人たちが、何よりあの人が大事なの。
王妃様だって助けられるなら助けてみせる。ううん、絶対助けるわ。
あんなに王様のこと愛しているんだもの。
絶対に無事、お二人の子供を取り上げてみせるわ。
そうしたら王様も、あの人の心も死なない。私が死なせないわ。
それがたとえ歴史を変えることになっても。
ってだいぶ話が逸れたけど、今はあの人の縁談よ!!
と、一人頭の中で考えを巡らせていると、本人が現れた。
「宿の準備ができました。ご案内します」
「ねえ、あとでちょっと話できる?」
「あなたにたくさんの縁談が来てるって聞いたわ」
宿に着いたら一番最初は絶対に体を洗うと決めていたのに、ウンスは宿屋の部屋に入るなり、くつろぐでもなく風呂に行くでもなく真っ先にヨンに尋ねた。
「誰がそのようなことを?」
「誰でもいいでしょ。それより本当なの?」
「……縁談が来ていることは事実です。されど、」
「よく考えたらそうよね。昔の人の結婚は家と家同士の結びつきなんでしょ?映画で見たことあるわ。そしてあなたの家は高麗の中でも名門の家柄。たくさんの縁談があっても不思議じゃないわ。そんなあなたが何も持ってない私と結婚って……」
「イムジャ、何度も申しました。俺は貴女がいれば他には何も要りません。確かにチェ家の歴史はそれなりにありますが、そこまで一族意識が強いわけではありません。叔母上を含め一族の者は俺が赤月隊に身を置いた時点で、直系の血を残すことなどあきらめていたはずです。そんな俺が妻を迎えると言えば喜びはすれど反対する者はおらぬでしょう」
「本当?」
「はい。それに直系の血筋は俺ですが、実質チェ家を取り仕切っているのは叔母上です。あの人に逆らえる者は一族の者ではおりませぬ。その叔母上がイムジャのことは認めております。何が何でも嫁にしろと早馬で書簡まで届きました」
「叔母様が?」
「はい。ですが他の重臣らはそうはいきません。恐らく何をしても俺たちの婚姻を面白く思わない輩はおるでしょう。口出ししてくる輩もおるかもしれません。ゆえに王様と叔母上に書簡を出しました」
「書簡?」
ヨンはウンスを椅子に座らせた。
「これからのことをいろいろ考えました。イムジャが医仙であるということを隠すべきか否か。どうしたらイムジャを守れるのか。先ほど申した通り、俺たちの婚姻を面白く思わぬ輩は確実におるでしょう。高麗内だけではなく、あの徳興君がいる元にもイムジャの噂が伝われば奴が再び何か仕掛けてくるとも限らない、キ・チョルの妹、キ皇后も然り」
「じゃあどうするの?また逃げたり、隠れたりしなきゃいけないの?」
いいえ、とヨンは首を横に振った。
「正面突破」
「正面突破?」
「ええ。イムジャが医仙だということは隠しませぬ。天界より参ったのは事実ゆえ。それに隠そうにも、4年前のイムジャを知る者たちはまだ居ります。隠して、下手に腹を探られるより、正面切って向かってくる輩を相手にした方がこちらもやりやすい」
ですが、とヨンは一度言葉を止めた。
「それでもイムジャが何者かに狙われる可能性は十分にあります。ゆえに」
ヨンはウンスの両手を力強く握り、ほんの少し怯えの色を浮かべたウンスの目を見据えた。
「全力でお守りします。何があっても必ず。イムジャには指1本触れさせません」
「ヨン……」
「それに医仙を娶るとならば王様の許可もいりましょう。王様への書簡には、イムジャとの婚姻の許可を請う旨と妻は医仙しか娶らぬと記しております。これを重臣たちの前で認めていただけば少しはイムジャに危害を加えようとする者も減りましょう」
「あなたは大丈夫なの?無茶してない?」
「ようやくイムジャを名実ともに俺のものにできるのです。無茶など。それに。もしこの身分や肩書きがイムジャとの婚姻の妨げとなり、さらにはイムジャの身を危険に晒すことになるのなら、その時は潔く職を辞して家を出ます。どこかで漁師をやって暮らすのも良いでしょう。そんな俺でもついてきてくれますか?」
「あなたがいるところが私の居場所よ。当然じゃない。でも仕事を辞めるなんてダメよ。あなたは王様の側にいなきゃ」
「もちろんです。職を辞すというのは最終手段。力がなければイムジャを守ることができぬゆえ」
「それでこそ私のチェ・ヨンだわ」
ヨンがそこまで考えてくれていたなんて。
感極まってウンスの目には涙が浮かんだ。
「ねえ、覚えてる?私たちがパートナーだってこと」
「はい」
「パートナーの条件は秘密は持たないこと、そしてお互いを守ること」
「はい」
「だからね、こうして話してくれて嬉しいの。前のあなただったら絶対一人で決めてたでしょ?何の相談もなしに」
「それは……」
「わかってる。私を守るためだって。それでも、あなたが私を守ってくれるように私もあなたを守りたいの。私のために無茶はしてほしくないし、危険な目に遭わせたくない。傷ついてほしくない。だからこれからもこの条件は継続よ。二人のことで何か問題があるなら事前に教えてほしいし、相談してほしいの。私も一緒に戦うわ」
「わかりました」
「約束よ」
ウンスは小指を差し出した。
はい、とヨンはその小指に自分の小指を絡めた。
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ウンスがヨンの過去を知る過程は、物語の中でちょこちょこ触れていきたいなあと書いてて思いました。
ウンスの正体を隠そうか、隠さないか正直悩みました。
でもヨンの正面突破の信条を考えると隠さなくていいか!と(笑)
ウンスのためとあらば、持てる力の全てでウンスを守るでしょう![]()
ヨンの縁談話は何の山も谷もオチもありませんでした(笑)
結局、ヨンとウンスはお互いが一番大事でお互いを信じているので、ただの愛の確認で終わってしまいました![]()
全然話変わりますが。
明日は原宿のinnisfreeに行ってきます~![]()