翌日、二人は村の市場へ出かけた。

薬房へ行き必要な薬草や薬剤を買い求め、それから服屋や小間物屋を見て回る。

とは言っても今回は帰還の途。入用のものはそこまでない。

それでもウンスはヨンとの買い物がよほど嬉しいのか、ご機嫌で露店に並ぶ品を見ている。

小間物屋で取り扱う珍しい品物に興味津津のウンスを横で見ていると、愛想の良い店主が声をかけてきた。

 

「旦那ァ、ちょうど質の良い柘植の櫛が入ったんだよ。美人な奥様にどうだい?」

 

物を見ると、歯の間隔も細かく、材質も良さそうだ。

何より目を惹いたのは美しく施された小菊の彫刻だ。

ウンスは隣で「奥様だって」と小さくはしゃいでいたが、櫛を見た途端目を輝かせた。

 

「それをもらおう」

「まいど!」

 

ヨンは買った櫛を早速ウンスに渡した。

 

「いいの?」

「ええ」

「ありがとう、嬉しいわ。大切に使うわね!」

 

ウンスはヨンからもらった櫛をしばし眺めてから、大事に懐にしまった。

ヨンの手に己の手を重ね、次の店に行こうとした時。

ウンスはふと、店に並べられた短刀が目に入り足を止めた。

 

「そういえば、あなたから初めてもらったものは短刀だったわね」

 

ヨンから短刀の使い方を教えてもらった時のことを思い出した。

あの時はヨンとの距離が近すぎて剣の使い方どころじゃなかったっけ。

なんとなく甘酸っぱい思い出だ。

 

「初めての贈り物が短刀って……ふふっ」

「あれは……身を守るためのもので」

「そうだけど。でも今思えばすっごくあなたらしいわ」

 

ほら見て、とウンスは足元から短刀を取り出して見せた。

 

今でも肌身離さず持ってるわ。100年前にいた時はこれがお守り代わりだったのよ。あなたからもらったものだもの。私の宝物よ」

「イムジャ」

「今日また宝物が増えたわ」

 

ウンスが嬉しそうに笑った。

ヨンはウンスの小さな手を包み込んだ。

笑みを交わし、ヨンの顔がゆっくりとウンスに近づくと、ウンスもそっと目を閉じた。

と、その時。

 

「あの兄ちゃんと姉ちゃん、せっぷんするぞ」

「せっぷんって?」

「見てればわかる」

 

ヨンとウンスは声がした方に目を向けた。

そこには兄弟と思しき小さな男の子が2人、物陰からヨンとウンスを見ていた。

兄弟の1人とヨンの目が合う。

 

「わっ!見つかった。逃げるぞ!」

「あ、待ってよ~」

 

二人の兄弟は一目散に逃げ出した。

まったく大人を揶揄って、とウンスは子供たちが駆けて行った方を見ていたが、二人の姿が見えなくなるとヨンの方を振り返った。

なんとなく続きをするのは恥ずかしい。

それはヨンも同じだったのか、互いにふっと笑い合い、再び手を繋いで歩き出した。

それからウンスとヨンが向かった先は。

 

「このお店のお饅頭はとっても美味しいのよ!」

 

とってもの部分を特に強調し、自信満々に言ってくるウンスにヨンは思わず笑みを漏らした。

 

「イムジャが言うのでしたら間違いないのでしょうね」

「な~んか含みのある言い方ね」

「気のせいです」

 

ウンスがこんにちはー!と元気な挨拶と共に饅頭屋に入る。

すると。

 

「お、姉ちゃん今日も来たのかい?」

「よっぽど饅頭が好きなんだな~」

「そういうおじさんたちだって毎日いるじゃない」

「おや、今日もどこか診てくれるのかい?」

 

と、そこらから声がかかる。

実は買い物している最中にも何度かウンスは声をかけられていた。

この方はほんの数日の間に多くの人の心を掴んだようだ。

 

「お姉ちゃん!」

「あら、チュニャン。怪我はもう大丈夫?」

「うん、ほら見て」

 

チュニャンは裾を捲り上げ、ウンスに膝小僧を見せた。

 

「本当ね〜綺麗に治ってるわ!けどねチュニャン、女の子がそう易々と人前で肌を見せちゃいけないのよ」

 

幼女を諭すウンスに、ヨンは貴女が言えることか、と内心思った。

高麗に来て間もない頃、白昼堂々素足を出して迂達赤の兵舎を訪れたのはどこの誰だ。

あの光景をヨンはいまでも忘れていない。

そんなことを考えていると、チュニャンと呼ばれた子供が自分をじーっと見つめていることにヨンは気づいた。

 

「お兄ちゃんだあれ?」

 

それは周りにいた客全員が気になっていたことだ。

特に若い男衆は、よくぞ聞いてくれた!と心の中からチュニャンに称賛を送っていた。

いつもテマンという青年と一緒にいるウンスが今日は別の男と来ている。

それもかなりの男前だ。

皆、口には出さぬが興味津津だった。

 

「うふふ、私の旦那様よ。イケメンでしょ?」

 

そう言ってウンスはヨンの腕に自分の腕を絡めた。

 

「いけめん?」

「すごくカッコよくて素敵でしょってこと」

 

陽気なウンスとは反対に、周囲(特に若い男)からは感嘆の溜息が漏れたのがヨンには聞こえた。

溜息が聞こえた方へ険しい視線をヨンが向けようとしたところで。

 

「この人が昨日言ってた旦那さんかい?ひぇ~本当に色男だね。あんたみたいな美人が夢中になるのもわかるよ」

 

女将さんはヨンを上から下まで見て、納得したように頷いた。

 

 

「お兄さんもこんな美人な奥さんを持ったら不安でしょうがないだろう?けど安心しな。この子はあんた一筋だから。何回か他の男に言い寄られてたけどね、こんな旦那がいるんじゃねぇ。どうりで他の男に靡かないわけだよ。」

 

ヨンの視線がウンスに向いた。

 

「そ、そんなことあったかしら?」

「それに旦那さんに美味しい饅頭を食べさせてやりたいから、作り方を教えてくれって言われた時はあたしゃ感動したよ。こんな良い娘、滅多にいないよ。大事にしてやんな」

「言われるまでもない」

「おや、アツアツだね~」

 

そうして食事をした後、数日後にこの地を去ることを伝えたら全員が寂しがってくれた。

 

 

 

 

「ねえ、なんか怒ってる?」

 

宿に戻ってから、というより饅頭屋を出てからヨンは一言も話さず、ずっと難しい顔をしていた。

ウンスの言葉に、それまで口をきかなかったヨンがようやく口を開いた。

 

「イムジャ、先ほどの話は真ですか?」

「先ほどって?」

「男に言い寄られていたと」

 

そんなことあったかしら、とウンスは笑ってごまかした。

 

「ずっとお聞きしたいことがありました」

「何?」

「100年前の世界で、貴女のそばで貴女を支えた男は居ったのですか?当時、この地は今よりも戦が絶えなかったと聞いております。そのようなところで女人の身で一人生き抜くことは至難の業。誰か貴女のそばに居った者は、居ったのですか?」

「確かに今よりもひどい時代だったわ。だからこそみんなで助け合って生きていた。

でも私はあなたの元に帰ることに必死でそれどころじゃなかったわ。私の支えはいつもあなただった。それにあなたが一番わかってるでしょ?」

 

ウンスはわずかに頬を染めた。

 

「私が身も心も捧げたのは後にも先にもあなただけよ。あなたがいつもイムジャだけですっていうように、私だってあなただけだもの。だから妬かないで、旦那様?」

 

 

 

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***

 

ちょっとした二人のデート風景?をお届けしました~!

もうすぐ開京に向かって出発をする二人。

その前にもう1箇所立ち寄るところがあります。

(なんとなく皆さんお察しでしょうが笑)

またお付き合いいただけると嬉しいです(*´▽`*)

 

あとアメンバー申請の件ですが、

申請だけしてメッセージもコメントもない方が多数いらっしゃいます。

またメッセージやコメントをいただいても、挨拶一切なし、必要事項を一言ずつ3、4行で終わり!という内容の方もいらっしゃいます。(あと、いきなりタメ口だったり、上から目線だったり…)

申し訳ありませんが、そういう方に対してアメンバーの承認はできかねますのでご了承ください。

(上記はアメンバー申請記事にも明記してありますので、アメンバー希望の方はご一読ください)