ふとウンスは目を覚ました。
うっすらと目を開けるが部屋の中はまだ薄暗い。
まだ夜明け前だろうか?
そんなことを考えながら、体が温かい何かに包まれていることに気付いた。
なに?と思って顔を上げるとこちらを見ているヨンと目が合った。
驚いて思考が一瞬停止する。
少しの間、状況を理解できなかったウンスだが直に伝わるヨンの体温と自分の身体に回されている力強い腕の存在を感じて、昨夜の出来事が蘇ってきた。
瞬間、羞恥が沸き、顔がカッと熱くなるが、それ以上にヨンが隣にいることが嬉しかった。
「目が覚めましたか?」
「ええ、あなたは?ずっと起きてたの?」
「眠りましたよ」
本当かしら?
もし一晩中寝顔を見られていたのだとしたら恥ずかしい。
けど今はそんなことどうでもいい。
「夢じゃないのよね?」
「はい」
ウンスがヨンの頬に手を伸ばし、指先で輪郭をなぞる。
「本物よね?」
「ええ」
ヨンは笑って、頬に伸ばされていた手を握り、その手の甲に口づける。
ウンスがヨンにぴたりと身を寄せ、たくましい胸に頬をすり寄せた。
何も身につけていない素肌から温かい体温とトクントクンと心地よい鼓動が伝わり、ひどく安心する。
そんなウンスをヨンはぎゅっと抱きしめた。
「体は大事ないですか」
低い声が耳に心地よい。
「ええ、大丈夫よ」
ふふ、とウンスが笑う。
「何ですか?」
「幸せだなぁって」
「俺もです。ですがまだ目覚めるには早い時間帯ゆえ、もう少しお休みを」
「うん」
ヨンの言葉にウンスは目を閉じる。
温かなヨンの体温に包まれ、あっという間に眠りの底に誘われた。
*
次にウンスが目を覚ましたのは、部屋の中が太陽の光によって明るく照らされた頃だった。
ウンスが寝がえりをうつとそこには何もなかった。
隣にあったはずの温もりも存在も。
ウンスは慌てて起き上がった。
胸がざわつき、心臓が嫌な音を立てる。
もしかして今までのことは全部夢だった?
いや、そんなの耐えられない。
ウンスは居ても立っても居られず、ヨンを探しに行こうと寝台から降りた。
そこへちょうどヨンが戻ってきて。
ヨンの姿を見た瞬間、ウンスは思わずヨンの元に駆け寄り抱きついた。
「どこに行ってたの?あなたがいなくなったと思って、私っ……」
「イムジャ、すみませぬ。朝餉の用意を。それよりも、服を……」
「え、服?」
ウンスが自分の身体を見ると、生まれたままの姿で。
「きゃーー!!!」
ウンスは寝台のある間に慌てて戻り、衝立の奥で急いで服を身につける。
着替えているところで、今さらながら下腹部に鈍い痛みを感じて、一瞬顔をしかめたウンスだったが、ヨンと繋がった証だと思うと頬が緩んだ。
そこではたと気づく。
体が綺麗になってる?
汗かいたのにベタつきもないし、それに……。
もしかしてというかもしかしなくてもヨンが清めてくれた?
すでにいろいろ見られた後ではあるがそれはそれで恥ずかしい。
ウンスは一人で百面相をしながら服を身につけていく。
着替えが終わり、ぼんやりとしか映らない鏡でなんかと顔と髪の毛を整えて続きの間に顔を出すと、そこにはヨンが持ってきてくれた朝食が並べられていた。
朝食を食べながら、ヨンの顔を見ると昨日のことを思い出して。
目が合うと恥ずかしくなってどこ見ていいのかわからなくなる。
こっそり窺ったあの人の顔もいつになく穏やかな顔をしている。
いつもなら眉間に皺を寄せて険しい顔しているのに、今は滅多に見せない笑みを浮かべていて、私を見つめてくるその瞳はなんとなく……甘い。
一緒にいるだけで嬉しくて幸せで。
この人も私と同じで気持ちでいてくれるのかしら?
そう思うと幸せな気持ちがまた膨らんできて、知らず知らずのうちにウンスも笑顔になる。
朝食を終えたところで、ヨンはウンスに告げた。
「俺は一度兵営に戻ります。戻ってあなたを連れて開京に戻る手筈を整えます。それまではここに居ってください」
「私は一緒に行っちゃダメなの?」
「なりませぬ。兵営は男所帯。そんなところにイムジャを連れてはいけませぬ」
「でも前はウダルチの兵舎に一緒にいたじゃない」
「あの時は王命だったゆえ、特例です。本来であればあり得ぬ事。それに今回はウダルチではなく、この地の兵たちもたくさんおります。あなたを兵営に連れていくなど言語道断です。帰還の準備が整うまではこちらでお過ごしください。テマンを護衛につけます」
「あなたは?」
「日中は役目がありますが、終わればここに戻ってきます。イムジャはここで俺の帰りを待っていてください」
「わかったわ」
ヨンは鬼剣を持って立ち上がり、戸の方へ向かう。
ウンスもヨンを見送ろうとその後を追う。
そこでヨンが振り返ってウンスをじっと見た。
「なに?」
「離れるのが不安です」
「そんなに心配しないで、子供じゃないんだから。部屋から一歩も出ないで大人しくあなたを待ってるわ。だから早く戻ってきてね」
「はい」
離れがたくしばし見つめ合う二人。
そこでウンスはヨンに素早く近寄り、その頬にちゅっと口付ける。
「いってらっしゃい」
すぐにヨンから離れて、ウンスは手を振った。ヨンは何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わず、名残惜しげにウンスから視線を外して背を向けた。
ヨンの後ろ姿が見えなくなると、ウンスは寝台へと戻り、ごろりと横になった。
寝台にはまだヨンの匂いが残っている気がする。
昨日のことを思い出すと照れくさいが、ウンスはヨンと結ばれたことに頬を緩ませる。
目を閉じれば、抱き締める腕の強さや覆いかぶさってくる身体の熱さ、情熱的な眼差しが鮮明に蘇り、なんだか、恥ずかしい。
でも、幸せな時間だった。とても。
嬉しくて、幸せすぎて。
好きな人と結ばれることがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。
昨日までと同じ自分なのにまるで生まれ変わったようだ。
何より一層ヨンのことが好きになった。
早く戻ってきてくれないかしら。
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