みじかいストーリー
書いてみた
『願い』
「ママ~歯が変だ!」と7歳になる息子が言ってきました。
見ると前歯が少しぐらついていて、
他の歯も見てみると、おく歯が少し虫歯になっていました!
「歯医者さんに治してもらうしかないわね」
そう言うと、息子は猛烈に嫌がりました。
以前行った時に、かなり怖い思いをしたようです。
「やだ!やだ!やだーーーーっ!」
「痛くなっちゃうわよ!」
「痛くなったっていい!!」
それから「歯」のことを言うだけで、
大泣きするようになってしまいました。
無理やり連れて行くことも出来ず、
どうしたらいいのか分からず、困っていました。
「どうか息子が歯の治療に行ってくれますように…」
何かに祈る思いでいました。
ある日買い物に行くと、
そのスーパーの近くで、歯科医院オープンのチラシを配っていました。
わりと近くに出来たのね…。
たくさんの動物たちがお出迎します![]()
歯の治療が苦手なお子さんも大喜び!![]()
チラシにはそう書いてありました。
「治療院の中で動物を飼うのって、衛生的に問題ないのかしら…」
そんな疑問はあったけれど、
ダメもとで、息子にそのチラシを見せて聞いてみました。
すると驚いたことに、目を輝かせて
「ここに行く!」と言ったのです!
すぐに予約の電話をすると、
次の日の土曜日、朝一番の予約が取れました。
明日になったら息子の気が変わっているんじゃないかと、
ひやひやしていましたが、
朝から行く気満々なのです!
(まさか動物が見たいだけで、治療は嫌がったりして…)
そんな思いが頭をよぎりました。
*************
「あら?ここにこんな建物あったかしら…」
この辺にはたまに来るので、地域の様子は知っているはずなのに、
来たことも無い場所のようでした。
「あったわ! ○○○○歯科クリニック」
玄関ドアを開けると、奥からリアルなウサギの着ぐるみを来た人が出て来て、ぎょっとしました!
動物たちって、このことだったのね…。
受付を済ませるとすぐに呼ばれ、
息子と一緒に診察室に入りました。
そこには、パンダの先生に、
白猫、柴犬、ホワイトタイガー、モモンガの着ぐるみを着た歯科助手さんらしき人達がいて、
その着ぐるみも、とてもリアルで迫力がありました。
息子はすぐに、嬉しそうに診療するイスに座ってくれました。
説明が終わり、待合室で待っている間も、
泣き出さないか心配でしたが、
何事もなく、笑い声さえ聞こえてきたのです。
(動物の着ぐるみを着ているだけで、こんなにも違うのね…)
感心しながら、
私は目の前の受付に座っているウサギさんを、じーーっと見ていました。
(本物のウサギみたい…こんなに精巧な着ぐるみ作るの、高そう…)
そんなことを思っていると、治療が終わり、
息子がニコニコしながら戻ってきました。
帰るときには、他に患者さんがいなかったからなのか、
なんと皆さんが出てきて見送ってくれたのです!
パンダ先生が言いました。
「人間の子供を治療するのは久しぶりだったんで、少し緊張しましたが、
○○くんは治療にとても協力的で、賢いお子さんなので助かりました」
私はその言葉にぎょっとしましたが、
動物の設定に徹底しているのだなと思い、お礼を言い帰路につきました。
一週間後、治療後の様子を見てもらいにに行くと、
着ぐるみではなくて、普通に30代くらいの女性が受付に座っていたのです。
「着ぐるみはやめたんですか?」と聞くと、怪訝な顔をされました。
受付から見える他の人も、着ぐるみなんか着ていません。
(オープン記念の数日だけだったのかしら…。)
これだったら、息子が嫌がるんじゃないかと心配していましたが、
診察から戻って来た息子はケロッとしています。
お会計をしている時にさりげなく聞いてみました。
「こちらのクリニックって、いつぐらいから、ここでやってらっしゃるんですか?」
〖10年くらいと聞いています」
女性は微笑みながらお釣りをキャッシュトレイにのせ、
「お大事に」と言った。
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