『目覚まし時計』
朝、何かの音に目が覚め、
うつろな状態で視線を動かすと、
そこには、大人の親指ほどもある大きなスズメバチが
羽音を部屋中に響かせ、
ヘリコプターのようにホバリングしながら自分を見ていた。
「うわーーーーっ!!」
驚いて飛び起き、枕をつかんで防御態勢になった。
「ヤツ」は自分に向かってくる気配もなく、
相変わらずホバリングしながら自分を見ている。
じーーっと見ていると、
ツヤツヤとして、黄色と黒の縞模様の「コイツ」が
やけに芸術的に見えた。
すると突然、
「タケシーー!時間よーー!起きなさーーい!」と
母親の叫び声が聞こえた。
??
部屋の中から聞こえる・・・?
スズメバチから聞こえる・・・?
訳がわからず固まっていたら、
母親が部屋のドアを荒々しくノックして入って来た。
そして、オレの様子を見て大笑いしたのだ。
「さすがにお目目ぱっちり起きたようね。
そのスズメバチ、実は目覚まし時計なのよ、
すっごく良く出来ているでしょう?」
「はぁーーっ?」
オレは唖然とした。
「タケシを起こすの、ホント大変なんだから!
今度はこのスズメバチで起きるようにしてね。
嫌だったら自分で起きるようにしなさい!
あ、そうそう、
これ、すっごく高かったんだから、叩いて壊したら弁償ねっ!」
そう言って、「目覚まし時計」を持って部屋を出て行った。
次の朝、またあの大きな羽音が響いてきた。
もう本物じゃないのはわかっているので、
頭から布団をかぶり寝ていると、
急に音が消えた。
不思議に思って布団から顔を出すと、
指に痛みが走った。
「イテッ!」
「目覚まし時計」がオレの指を刺したのだ!
「コイツ、本物みたいに刺す機能もあるのか!」
手に取ろうとすると、素早く飛んで移動するので、
どうしても捕まえる事が出来なかった。
試しに叩き落そうとしたが、無理だった。
でも母親はいとも簡単に捕まえるのだ。
主以外には捕まらない仕組みなのか?
この「目覚まし時計」という名の凶器に、
初めはイライラしていたが、
でも、だんだんと、
この「目覚まし時計」に愛着がわき、
楽しみになってきたりした。
今では自分の相棒なのだ。
*このお話のスズメバチには、
「今○時○分です」と知らせる機能も付いている設定です![]()
