愛犬の”ラン”と今日も散歩に出かける。
途中、大きな湖のそばを通った。
すると、
いきなりランは湖の中へ飛び込んでいってしまった!!
何が起こったのか訳がわからず
ただ呆然と湖を見ていた。
ラーーーーーーーン!!
ラーーーーーーーーーーン!!
いくら呼んでも、叫んでも
ランの姿はどこにも見当たらない…
悲しみと絶望が私をしめつける。
すると
湖面がブクブクと泡立ち
泡の中から
立派な長いひげ、長い白髪の老人が現れた。
私は、腰を抜かさんばかりに驚いた。
その老人は湖面の上でくるくるっと回転すると
片方の手には湖へ姿を消したランが、
もう片方の手には子犬だった頃のランを持っていた。
いや、
空中に浮かんでいると表現した方がいいだろう。
その老人は私に言った。
「そなたが探しているのは、こちらの大きな犬の方かの?」
「それとも、こちらの子犬の方かの?」
・・・・・なんなんだ・・・・・・・・
まるで金の斧と銀の斧の話みたいじゃないか。
自分は白昼夢でも見ているのか?
悲しすぎて頭がおかしくなっちゃたのか?
老人はまた聞いてきた、
「そなたが探しているのは、こちらの大きな犬の方かの?」
「それとも、こちらの子犬の方かの?」
いやいや、
これは夢なんだ!
すごくリアルな夢なんだ!!
そうだ、
夢なんだから何でも有りなんだ!
そう自分に言い聞かせることで
冷静な自分を取り戻そうとしている。
改めて老人が手のひらで浮かせている”ラン”を見た。
湖に姿を消した、
もう会えないと思っていた愛しいラン。
目の前のランを見て涙があふれ出た。
当然”ラン”をこの手で抱きしめようと思った。
しかし、
子犬のランを見た時に
あの愛らしくて天使のようだった記憶がよみがえり、
あのかけがえのない経験をもう一度できるのなら…
そう思ってしまった。
(自分はなんてエゴイストなんだ!!)
「ふぉっ ふぉっ ふぉっ ふぉっ」
急に老人が豪快に笑い出した。
そして、子犬のランを私の目の前に差し出した。
・・・・・・・私は躊躇した。
罪悪感との葛藤で心の中はぐちゃぐちゃだった。
すると老人はそんな私の心の中を見透かすようにこう言った。
「またなぁ かわえぇなぁ~かわえぇなぁ~って育てたらえんじゃよ」
「また会えるんじゃよ」
(また会える?)
私は暗示にでもかかったように子犬のランを抱きしめていた。
すると老人は ”ラン”を抱えて、
また豪快に笑いながら湖の中へと消えていった。
あれから数年ーーー
私は”ラン”に再会した。
