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「お出かけに、なるのですか?」
目の前の女が、いつものようにおっとりした口調で問いかけた。
続いて上目使いに男を見る。これもいつもの事。
彼女自身は普通に見つめているらしいが、背が低いせいでいつも上目使いになる。
「・・用事が終わったらすぐに帰る。それまで部屋の掃除でもして待っていろ」
ぶっきらぼうにそう答えて会話を無理やり打ち切る。
男の言葉に、肩でそろえられたブロンドの髪が不安げに揺れる。
何かいつもと違う雰囲気である事はどうやら察知しているらしいが。
今はそんな事を気にしている場合ではない。
「あの・・ラウル様・・」
控えめに、しかしどうしても聞かねばならないといった感じで女-マリアが問いかける。
男-ラウル・アルフォンソは答えない。しかし、代わりに歩みを止める。
「・・あの、奥の部屋にいる男の子・・フリール様のお世話をしても?」
ラウルの頬が僅かにピクリと動く。
奥の部屋に隠していた人質の存在に気づいていた、か。なかなか侮れんな。
ふと、ラウルの口元に薄く笑みが浮かぶ。
ラウルは黙ったまま。その背中にマリアが頭を下げる。
「申し訳ありません。余計な事とは思いましたが、どうしても見過ごせず・・」
「好きにしろ。俺が帰るまで生きていればそれでいい」
マリアの言葉を遮るようにラウルが答える。マリアが笑顔になったのは背中越しでもわかる。
ラウルがマリアの次の言葉を促すように暫く待つ。
が、マリアはそれ以上何も問おうとしない。
それを確認した後、ラウルが「行ってくる」とだけ短く言う。マリアが背中に「行ってらっしゃいませ」と声をかけ、頭を下げた。


待ち合わせは今は使われていない採石場だった。
かつてはドワーフ達が使用し、大破局の際うち捨てられた場所だった。
ここなら、誰の邪魔も入らない。
ラウルは小屋の前にある石に腰をかける。
無意識に持っている銃を確認する。
準備は万端のはずだ。
知らず、ラウルの顔から笑みが漏れる。
これなら思う存分、遣り合える。
誰にも邪魔されず、最後まで殺しあえる。
やがて、採石場の入り口付近からひとつの人影が現れた。
見かけは細身の体つき。だが、無駄の無いしなやかな動きは歴戦の猛者のそれだ。
やがて人影はラウルと一定の距離を保って歩みを止める。
「久しぶりだな、ウィル」
「無駄話はいい。・・フリールは無事だろうな?」
「そんなにあのガキが大事か?安心しろ。生きてはいるさ。今のところな」
ウィルが、黙ったままラウルの話を聞いている。
「だが、お前は今日ここで死ぬ。お前が死ねばあのガキも殺してやるよ」
一瞬の早業で、腰と懐から銃を抜き、おもむろにウィルに向ける。
ラウルのマギスフィアが鈍い光を放つ。
「ソリッド・バレット発動。発射!」
ラウルの銃から魔法の弾丸が発射される。
それより一瞬早く、ウィルの姿が視界から消え、あさっての方向に弾丸が飛んで行く。
同時にラウルが石の後ろに身体を隠す。一瞬前にいた場所に寸分違わずウィルの弾丸が打ち込まれる。
「さすがだな!腕は落ちてはいないようだ!」
ラウルは楽しそうに一人ごちる。
右側に気配。
視線は向けず、気配だけを頼りに銃を向け発砲する。
ギンという鈍い音と共に何かがはじける音。後には鉄の破片と大型のナイフの柄が地面に落ちる。
一瞬にして、気配が消える。
遅れて左から気配。
「そこだ!」
ラウルが左に銃を向ける。
視界にはウィルの上着のみ。
同時に後ろから気配。
「読み通り」
ラウルが左手に持った銃口が右脇から覗く。躊躇なく引き金が引かれた。
鈍い音と共に、手ごたえあり。
ラウルの口元に笑みが浮かぶ。
視界の端でウィルがどっと倒れる。
立ち上がると、ゆっくりウィルの傍に歩いて行く。
「終わりだよ、ウィル」
ラウルがウィルの額に銃口を当てる。
ウィルは動こうとしない。
「・・ひとつだけ、聞かせてくれ。この行動は・・シャンデルをつぶす為、か?」
ウィルの言葉にラウルが笑う。
「はっ、笑わせるな。あんなガキに興味はねぇよ。これは、俺自身のけじめをつける為だ。俺とお前、どちらが強いか、ただそれを決めるだけだ」
「そうか、なら安心した」
ウィルの瞳がカっと見開かれる。
同時に肌が青白く変わり、額に隠れていた角が肥大化する。
異貌-ナイトメア特有の変身。
魔法に特化したナイトメアは本性を現す事で、魔法を使用する際の制限-呪文の詠唱並びに複雑な動作を省略する事が出来る。
右手で突きつけられた銃口を払いのけ、左手に持った銃でラウルに発砲する。
「はっ!そうこなくちゃな!」
銃弾をぎりぎりでかわすと、両手に構えた銃を連射する。
ウィルもぎりぎりでかわす。
直線的な動きで、ウィルが距離を詰める。
「血迷ったか!」
ラウルが銃口を向けた瞬間。
バム!
ラウルの銃が小さく爆発する。一瞬、銃口がぶれた。
「しま・・!」
気付いた時にはもう遅い。
”ノッカー・ボム”
ウィルは先ほどラウルの銃を打ち払った時、銃口に小さな爆発を起こす爆弾を魔法で作り出し、銃口につけたのだ。
本来は扉などの鍵を吹き飛ばすための魔法爆弾。爆発自体は小さなものだ。
だが、銃口をぶれさせる衝撃を生むには十分。
そして、その一瞬はウィル相手には命取りだった。
二撃目を向けるより早く、ウィルの拳がラウルのみぞおちにめり込む。
うめきながらも、ラウルは左手の銃を捨て懐から取り出したダガーを振り下ろす。
だが、振り下ろされた手首をウィルはつかみ、逆手を取るとそのまま地面に投げ倒す。
倒れたラウルに向けて、ウィルが躊躇なく引き金を引いた。
「がっ!」
傷を抑えて呻くラウルの傍に、ウィルがゆっくり近寄ってくる。
「君の負けだ。もう、いいだろう。これで止めにしないか?」
「だ・・れが!」
なおも震える腕で銃を向けようとするラウル。
ウィルがその腕をを蹴り上げる。
腕を押さえながらも、ラウルの目はウィルをにらみつける。
あきらめる気はないようだ。
ウィルは、ふ・・と小さくため息をつくと、仕方ないといった感じで引き金を引いた。
ラウルの視界が一瞬で暗転した。


気がつくとラウルの視界に良く見知った天井が映った。
暫くして、ベッドに寝かされていることを理解する。
上からマリアが心配そうにラウルの顔を覗き込んでいた。
「気が付かれたのですね・・」
心配そうなマリアの声にラウルは答えず一人ごちる。
「・・殺さなかったのか」
身体を見ると応急処置が施されいるようだった。
マリアに応急処置の技術はない。と、言うことはウィルか。
「・・あのガキは、どうした?」
ラウルの問いに、マリアは少し困ったような顔をして答える。
「フリール様は・・お連れの方が、その、迎えにこられたので」
「そうか・・」
どうやら、この場所も最初から知られていたらしい。すべて承知の上で乗ってきたということか。
マリアが「今、暖かいものをお持ちしますね」と部屋を出て行く。
しかし、ラウルはマリアの言葉をもう聞いていなかった。
心の中でもう一度誓う。
ウィルめ。覚えていろ。
貴様を倒すのは俺だ。
その時までせいぜい仲良く家族ごっこをしておくがいい。