・カンヌ審査員特別賞を獲得した「パパ/ずれてるゥ!」で
冴えない父親を演じたのはバック・ヘンリー。
俳優としてよりも脚本家として有名な人。



脚本作を中心に俳優業、
あるいはプロデュース、監督までこなす多芸多才な人物。



「卒業」の脚本で注目されて、マイク・ニコルズ監督と意気投合、
ベストセラーとなったジョセフ・へラーのブラックユーモア小説
「キャッチ22」の脚本に参加し、映画化を成功させた。



悲喜入り乱れた複雑でややこしい展開の風刺劇で、
当時、映画化困難な小説と言われていた「キャッチ22」を、
巧みな映像化へと導いた功労者でもある。

しかもこの作品、フロントインジェクション以外、
CGを全く使っていないのがスゴイ。



その「キャッチ22」は、
同時期の戦争風刺劇「M★A★S★H」とよく比較されて、
コメディという表記をよく見かけるが、これは大間違い。



ロバート・アルトマンのPOPな才気が炸裂した軍隊乱痴気騒ぎの
「M★A★S★H」とは、まったくポイントが異なる。



同じ軍隊風刺でも、テーマはもっとシリアスなところにあって、
戦場を舞台に、“常軌を逸する”ということが何なのかを、
どこまでもエスカレートさせて、兵士たちのさまざまな精神崩壊を描く。



この作品は、
チョッと衝撃度の高い内臓ボロリの目を背けたくなるシーンはあるし、
一瞬目を疑う、ボディチョッパーの切株ホラー並みの強烈シーンも登場する。

どっちかと言うと、
お笑い薄めのクレージーなヒューマンドラマと言い切ってしまいたい。



こんな浮き沈みの激しいストーリーに、娯楽の要素も詰め込み、
危険な独特のスパイスを効かせたバック・ヘンリーの叡智には
恐れ入る。



時間軸をバラバラにした構成や、
シニカルな幻夢がインサートされる展開は、
カート・ヴォネガット・Jrの「スローターハウス5」の
世界観に近い。








●CATCH-22(1970・アメリカ)
監督:マイク・ニコルズ
原作:ジョセフ・へラー 脚本:バック・ヘンリー
撮影:デヴィッド・ワトキン






・黒字に白抜きというシンプルなタイトルロールに
スタッフ、キャストの名前が出て、その真っ暗な画面に
時折、遠くで吠える犬の鳴き声や鳥のさえずりが
聴こえる…。



うっすらと島の稜線が浮かび、
いきなり轟々と唸る爆撃機のエンジン音が響き始める…



闇の静寂から覚めていくような流れのオープニングは、
狂気のドラマの混沌を物語る異様な迫力に満ちている。



「キャッチ22」は、
アメリカ軍の爆撃機が群舞する航空基地を舞台に
いつ終わるとも知れぬ出撃兵士たちの苦渋とジレンマを
ブラックな薄笑いの中で見せる異色作。



一刻も早く軍隊から逃げ出したいというストレスだらけの
ヨサリアン(アラン・アーキン)という爆撃手を中心に、



出撃を繰り返す辛苦を共有する同僚の兵士たちから、
ミリタリズムまみれの軍隊に巣食う戦争中毒症の連中まで、
軍隊に弄ばれる者たちの群像劇が繰り広げられる。



当時としてはかなりのオールスターキャストで、
バラエティにとんだ俳優がズラリと顔を揃える。



作品を語るより、この多彩な顔触れを見れば
いかにも、ややこしい映画の一端を
感じてもらえるはずだ。

圧倒的な存在感の、職業軍人の連隊長
マーチン・バルサム


その腰巾着で権威主義の申し子みたいな副官
バック・ヘンリー


軍事物資を利用して闇のブローカーとして
ビジネスを画策する中尉、ジョン・ヴォイト


間の悪そうな皮肉屋の作戦将校
リチャード・ベンジャミン


まともそうに見えて気の小さい従軍牧師
アンソニー・パーキンス


軍規の中に存在する“キャッチ22”の意味を説明する軍医
ジャック・ギルフォード


イタリアの娼婦と恋仲になるヨサリアンの同僚兵士
アーサー・ガーファンクル


彼に人生を説く老人が
名優マルセル・ダリオ


無愛想な巨漢の将軍、
オーソン・ウエルズ


将軍の秘書らしきセクシー将校
スザンヌ・ベントン



他にも

真面目で気のいい爆撃手、マーティン・シーン


何度撃墜されても生き残ってきたボブ・バラバン


夜間外出許可にこだわる爆撃手、チャールズ・グローディン


野戦病院の癒し専門看護婦、ポーラ・プレンティス


最前線に出たことのない少佐、ボブ・ニューハート


将軍にバカ呼ばわりされる娘婿、オースティン・ペンドルトン


激務ですっかりイカレてしまう操縦士、ピーター・ボナーツ


能天気な軍曹、ノーマン・フェル


…といった、芸達者なクセモノたちが
華麗なアンサンブルを繰り広げる。





いきなり主人公がナイフで刺されるという出だしからして、
そこで起こっていることは尋常ではない。



さて、タイトルのキャッチ22というのは何の事か?
これが、ストーリーのキーワードになっていて、



「頭がおかしい人間に、自分が正気かどうかなんてわからない。
自分が狂っているとわかるうちは正気だ」

という、頭の方で登場する軍医のセリフにあるように



軍隊が疑問を抱き、逃走を意識し始める兵士たちに
絶対服従を強いるために準備した
ヘリクツまがいの都合のいいルールの事である。



反戦以上に、そんな反体制の落とし穴を具体的に描いて見せた
奇妙奇天烈で思いもよらずヘビーな作品。

この独特な世界観は、好き嫌いがハッキリ分かれると思う。
それでいいんだ、
という監督マイク・ニコルズの確固たるスタンスは嬉しい。






★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。