『鯨神』の田中徳三監督は、勝新太郎主演の「悪名」、「座頭市」シリーズ、市川雷蔵主演の「眠狂四郎」シリーズで知られる大映生え抜きの職人肌の監督だが、デビュー作は『化け猫御用だ』(58)というコミカル・スリラー時代劇。

血気あふれる監督本人は、デビュー作として怪談モノに当たったことにはたいそうがっかりしたらしい。
そりゃそうでしょう、添え物まがいのプログラムピクチャーですからね。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

     御用だ…って…ウン、こりゃいかんナハロウィン

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しかしながら
昭和の早い時代から夏の風物詩でもあった怪談映画で、ひときわ息の長い人気を誇ったキャラクターが化け猫

リアルタイムで見れなかったのがザンネンでならないが、
僕が個人的に大好きな怪談も、有無を言わさず化け猫

というわけで、僕の化け猫ベストワンに挙げたい「日本化け猫映画史上」の傑作を。






●亡霊怪猫屋敷(1958・新東宝)
監督:中川信夫 原作:橘外男 脚本:石川義寛 藤島二郎



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■日本に怪談映画は数多あれど、
中川信夫監督の怪談映画くらい
心底怖いものはない!


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この明治後半生まれの監督は、大正、昭和の困窮の時代を潜り抜けながら生きていく中で、
“人が何を怖いのか”
“何を見て恐怖を感じるのか”

を実体験を通して体得してきたふしがあり、それを「見世物」としての映画フィルムに収める達人であったと思われる。

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僕が子供の頃は、夏になるとTVで怪談特集、怪奇映画特集などをやったり、
プロ野球の雨傘番組(これも使われなくなったコトバですが)で怪談を流したりしていた。

夏にもかかわらず毛布など引っ張り出してきて、頭からかぶってビクつきながら観ていたものだ。

アニメの「日本むかし話」でも夏には怪談、怪異談を取り上げていて「雪女」や「牛鬼」など、アニメながら市原悦子&常田富士男のセリフ回しも、怪談になると俄然気合が入っていて子供心にマジ怖かった。

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出たァ!化け猫の必殺技・女中あやつり人形!

今でこそモダンホラー、ポストモダンホラーへと進化したビジュアル・ホラーが全盛期だが、ガキのみぎりに日本の古い「怪談」に触れていた世代としては、日本の怪談話は、子供を恐怖のどん底に陥れるには充分過ぎる効果があったと思う。

「四谷怪談」や「累が淵」「番町皿屋敷」「牡丹灯篭」といった古典の名前もその頃覚えた。
そして、本作「亡霊怪猫屋敷」を深夜にTVで見て以来、いまだにこの映画を夜中ひとりで見ることは不可能という意味の怖さを抱えたまんまである。



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化け猫映画と言えば、
サイレント映画の昔から作られていて、※佐賀鍋島藩のお家騒動がベース。

ならこれも時代劇か、と思いきやこの中川版化け猫は「現代」と「過去」の江戸時代が繋がっていて、
いきなり深夜の薄暗い病院を懐中電灯で照らしながら歩くモノクロ映像の主観視点でストーリーが始まる…。

いやいや深夜の病院を、懐中電灯ですヨ!勘弁してくださいヨ、マジで。
こんなドキッとさせられる導入の仕方が本家中川流。

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霊安室に運び込まれる遺体がチラッと映ったり、
コツコツと誰かが後ろから着いてくるような足音が響いていたり、
まったく何を考えてんだか、のっけから雰囲気は本気で怖い。

そして主人公の医師(細川俊夫)のナレーションが入り、数年前のある事件のことを語り始める…。

医師の妻(江島由里子)が結核療養のため実家の屋敷に帰って庭先を歩いていると、突然白髪の老婆の姿が目に入る!

ウワ!いきなり、誰だよ、もう!!
と見ているこっちもビクッとして、軽く涙目になっている。

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病を抱えていて不自由な妻の悲鳴と共に、
いきなり白髪の老婆がそこにいるところが、
一切容赦のない不安と恐怖を同時に叩きつけてくる中川タッチである。

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この老婆が、執念のごとく妻にまとわりつく呪いの話が「現代」部分で現在進行形で語られ、
呪いを解くべく現れる住職(杉寛)が語る「過去」の怪猫怨念話が挿話として語られる。

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何故か過去の部分がカラーになり、ここはもう中川信夫の恐怖演出の独壇場で、
化け猫に取り憑かれた家老の母親が、

屋敷の池の鯉をくわえて徘徊したり、
行燈の油をピチャピチャなめたり、
死人の血をなめたり、

そんな姿を見られた母親が

「見たな~っ!」
と逆上するやいなや、一気に化け猫に変化して大暴れする。

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鍋島化け猫話をなぞらえた因縁の大騒動が語られた後、また現代に戻り、
住職の助言で呪いを封じる策を講じるのだが…

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そのクライマックスの悪霊退散のくだりでも、妥協無き中川演出は
観る者の心理を逆手にとった強烈な恐怖でたたみ掛けてくる。

はっきり言ってヤバイ!!中川映画はヤバイ!!

更には、秀逸なオチを仕掛けて幕を降ろす…。


必見の本格派怪談映画です。

★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。





原作は橘外男の恐怖小説で、現代と過去の両サイドを巧みに書き分けた石川義寛と藤島二郎の脚色も気合が入っている。

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白髪の老婆と化け猫を演じる五月藤江は、新東宝の怪奇映画中心に活躍したベテラン女優。
この女優さんのアクティヴな演技が冴え渡っている。

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そんな散々怖がらせ続ける中川怪談話術の大技小技は、
やはり、この人の人生経験に裏打ちされているとしか思えず、
他人に真似の出来る領域をあっさり超越していて、見事と言うより他ない。

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        元祖ネコ耳カワイイでしょドキドキ


新東宝の夏興行は中川信夫のプログラムピクチャー「怪談モノ」で走り続けたが、
本作が頂点ではないかと思う。

遺作となった『怪異談 生きてゐる小平次』(82年・ATG)は、登場人物たったの3人という
極めつけの怪談で、息苦しくなるような秀作であった。


※《鍋島化け猫騒動のこと》
『秀吉時代の佐賀の国主、龍造寺家の嫡男・龍造寺高房が、己の背負う重荷に耐え切れず、錯乱の末に妻を殺し、自殺を試みるも未遂に終わり、ついには妻の亡霊に悩まされながら苦悶の末に死に至る。
その跡目争いに台頭してくるのが重臣として仕えた鍋島家で、追いやられた龍造寺家の高房の寵愛していた猫が、
主君の血をなめて怪猫へと化身して鍋島一族を呪うという怪異談である。』









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見たニャ~~~~~~ブタネコ